地域ぐるみで子育てをサポートするための交流拠点と情報紙作り
<特定非営利活動法人 子育て支援ベビースマイル石巻>

団体と助成の概要

ベビースマイル石巻1

 津波被害が甚大だった石巻市では被災した公民館や体育館も多く、また公園には仮設住宅が建てられるなど、親子の集いの場が著しく減少。当時1児の母であり妊娠中でもあった荒木裕美さんは「子育てママの孤立を防ぎたい」と、震災後まもなく団体を立ち上げ(2012年4月にNPO法人化)、妊婦さんと親子向けの交流会をこれまでに450回以上開催してきました。

 そして2012年度はこども☆はぐくみファンドを活用し、“地域のママと支援者たちのネットワーク作り”“コミュニティカフェ作り”“お産と子育てに役立つ情報冊子作り”の3事業に取り組み、活動の幅を大きく広げました。その目に見える成果が、石巻市のママに大好評の交流スペース「ボンボンカフェ」、そして石巻圏の市町で母子手帳と一緒に配布される「お産と子育てリソースマップ」です。同団体はこれらの実績をもとに、地域の子育て支援の中心的な存在としてリーダーシップを発揮しています。

 

予想を上回る反響を呼んだ親子交流会

 

 震災後、身重の体だった荒木さんを動かしたのは「何か自分に出来ることをしなければ」という強い思いでした。「私自身、仙台から石巻に嫁いできて孤独を感じた時期もありますが、子育てママ向けの催しに参加して友達が増え、この町で頑張っていこうと大きな励みになった。そういう場作りなら私にも出来るんじゃないかと」。以前は親子向けの体操“親子ビクス”を提供するサークルの運営スタッフとして活躍していましたが、仲間の一人は震災の犠牲になり、他のメンバーも散り散りになってサークルは解散。大きな痛みをバネに「被災して家に閉じこもりがちな妊婦さんや乳幼児を抱えたママ、そして新しく移住してきた親子も心が癒され、気持ちや情報を共有出来る居場所づくり」を目指して、2011年5月から活動をスタートしました。

 6月に第2子を出産し、翌7月に初めての親子交流会を開催するという強行スケジュールでしたが、交流会には予想を上回る約60人の親子が参加。「交流の場を求めている方がいかに多いかを痛感した」といいます。

代表理事の荒木裕美さん。男の子2人と女の子1人のお母さんであり、子育てにも団体の活動にも全力投球。

 

石巻圏各地の支援者や団体と連携

 

 その後はベビーマッサージ・親子ビクス・もの作りを楽しみながらの茶話会など毎回テーマを決め、講師を招いて多彩な交流サロン・イベントを実施。「妊娠中の女性も安心して参加できるよう助産師さんが体操の指導をする」といった配慮も人気の理由で、毎回定員を上回る参加希望が。そして活動を続けるうちに助産師や産婦人科医、子育て支援センター職員や子育てサークルのママといった多世代・多職種の支援者とつながりが出来、「子育てママと支援者が交流し、地域の人も気軽に立ち寄れる居場所——コミュニティカフェが必要だねという話が自然に持ち上がったんです」。

 カフェの名前は絆を意味する“bond”と生まれるの“born”を合わせた「ボンボンカフェ」と決め、2011年末に「ボンボンカフェプロジェクト」を発足。そしてこれを機に「石巻圏でばらばらに活動している支援者同士もつながる必要がある」と考え、地域の課題やリソース(子育てを援護する施設や仕組み)を情報共有するためのワークショップを石巻圏の各地で開催。また他団体と協働して親子向けの交流会を開き、連携を強化しつつ、カフェ設立に向けて協議を重ねました。 

ベビースマイル石巻4

石巻市開成地区の「プレーパーク」で、他団体と協働して行った親子交流会。
親子はピクニックを楽しみ年上の子どもとも交流。

 

石巻初のコミュニティカフェが始動

 

 さらにカフェ運営を行う東京の先駆的な団体の視察や交流会参加者へのヒアリングを行う中で、目指すべきコミュニティカフェの形も明確に見えてきました。荒木さんいわく、「ママや妊婦さんを中心に地域の多世代の人や支援者がゆるやかにつながり、様々な情報が得られる交流拠点——言い換えるなら、地域ぐるみで子育てをサポートするための核となる場所。ママ目線で言うと、いつでも気軽に遊びに来て仲間づくりが出来、安心して過ごせる場所が求められています」。

 常時使える場所の確保が難しかったため、2013年4月から石巻市開成地区にある高齢者向けグループホーム内のスペースを借り、毎週水曜日に「ボンボンカフェ」を開設。スタッフや先輩ママに見守られ、乳幼児を遊ばせながらランチやおしゃべりが楽しめる希少な場として、多くの親子に愛用されています。2ヵ月に1回、保健師・栄養士が訪れて乳幼児の体重測定を行い、様々な相談に応じてくれるのも特長。今後は世代を越えた交流イベントなども行っていく予定です。

ベビースマイル石巻2

2012年度には“多世代の交流拠点となるコミュニティカフェ”設立を目指して
地域の高齢者と妊婦・親子の交流イベントも開催。

 

ママによるママのための情報冊子作り

 

 カフェ作りと並行して、冊子「お産と子育てリソースマップ」を2,000部発行。主に石巻市や東松島市で保健師による新生児訪問の際に配布されました。冊子には「ボンボンカフェプロジェクト」メンバーのママが情報集めの段階から関わっています。“乳幼児連れで遊べる公園”“子育てをサポートしてくれる施設・団体”といった痒いところに手が届くような情報が満載。「母子手帳と一緒に受け取った瞬間、子育てが楽しみになった」という新米ママもいます。また一つの事業を完遂したことでリソースマップ作りに関わったママたちも自信をつけ、「ベビースマイル石巻のような団体を立ち上げたい」と意欲的に活動を始めている人も。

 同団体の活動に参加するママたちが主体的に活動に関わるようになり、地域の子育てリソースがさらに増えていくというプラスの循環をも生み出しています。

(2013年11月取材実施)