福島県郡山市を拠点に、自宅以外に過ごせる場所が少ない不登校や引きこもりの子どもが、本来の力を出せるように居場所を提供している「ほっとスペースR」。
代表の宗像家子さんは、保育士資格や幼稚園教諭の免許を持ち、これまで150人以上の相談に対応。不登校や引きこもりの子どもの多くが抱えている孤立感に寄り添い、子どもが自ら次の一歩を踏み出せるように、伴走してきました。
その経験を生かし震災後は、東京電力福島第一原発事故により、放射線量に不安を抱えて孤立しがちな親と子に、ストレスを緩和する一時避難を行った他、子ども同士、親同士が、共に語らう場を提供。孤立感をやわらげ、自信をもって生きていけるようにサポートしたいと、つながりづくりに注力した活動が展開されました。
外遊びの抑制が親子のストレスに
安全配慮から、草に触れないように、雨に濡れないようにと子どもに注意を促し、自らの行動も抑制しがちな、小さい子どもを持つ親。常に放射線量を意識する生活で、遊びや行動を制限され、身体の発育だけでなく、友達づくりや人格形成にも影響が及びがちな子ども。その積み重なっていく親と子のストレスを軽減するには、「ほっとする場や機会を設けるだけでも違うのでは」と宗像さんは考えたと言います。
そこで、「郡山市で生活していく中での考えや行動を整理するため、落ち着いて自分自身で考えられるような環境づくりを」と、北海道への一時避難プログラムを準備。生活環境を変えることでストレスを緩和し、想いや不安を、同じ境遇の仲間同士で語り合える場を設けることにしました。
夏休みの4日間、北海道へ一時避難プログラムを実施。
子どもたちは外の空気を感じながらプールに入る場面も。
北海道でのびのびコミュニケーション
参加したのは、幼児や小学校低学年のいる6家族と、ほっとスペースRの利用者でボランティアスタッフとして加わった不登校や知的障がいなどの中高生や青年です。
大自然の中で過ごす北海道4日間の旅。当初は草原を前に放射線を心配していた子どもも、親が安心して遊びを促すもとで、のびのびと走り回りました。参加した母親からは「どれほど窮屈な思いをさせていたかが分かった。これからは、『ダメ』と行動を制限するだけでなく、今の状態でどう対応していくかという考え方に変わった」との声もあり、それまでの子育てを振り返り、接し方に気がつく機会に。また、他の家族の子育てを見て、自分の子育ての参考にするきっかけにもなりました。
子どもが寝た後は、親同士で語り合う場も用意。普段の郡山市での生活の中では、問題意識や価値観の違いを恐れて、震災や放射線の話題を避けている親たちも、環境が変わり関係を深めることで安心感が生まれ、夜通し日頃の想いを話し合うことができました。
ボランティアスタッフとして参加した不登校の高校生に関しても、「自発的に参加者と交流し、コミュニケーションに自信をもてたようです」と宗像さんは、もう一つの意義も話しました。
宗像さんが語り場の進行役。
様々な世代の社会的自立を促すコミュニケーションの場を目指している。
語り場により「ひとりぼっち」をなくす
年間を通して行った活動には、郡山市内で開いた語り合いの場があります。「小学校低学年の親のかたりば」と「中高生のかたりば」、どちらも宗像さんが進行役を務め、話題を固定せず、今感じていることなどから話し始めるスタイルです。型にはめない進め方に、リラックスできる居場所づくりを展開してきたほっとスペースRのノウハウが生かされています。
コミュニケーションに苦手意識を抱えた子どもは、自分から言葉を発しないことが少なくありません。宗像さんは、子どもたちに接する度に、自分の意見をきちんと伝えるようにとアドバイスしています。「最初に話すんです。世の中みんな同じ考えではないから、意見を言って拒否されることがあっても当たり前。同調されなくても自分はこう思うと伝えていいんだよ、と」。
宗像さんのアドバイスや、リラックスした雰囲気により、中高生のかたりばでは「今さら放射線を気にしてもしょうがない」「結婚できるのか」など、一人ひとりがそれぞれの不安や想いを少しずつ表現できるようになりました。
「中高生のかたりば」は年6回。
アンケートに「今考えていること」「不安なこと」などを記入した後、自由に語り合う。
北海道でも、語り合う場でも、それぞれの想いを引き出すように心がけているのは、お互いを認め合える関係づくりを目指してのことです。「認め合う関係ができれば、どこにいても『ひとりぼっち』じゃない」。そのことを伝えたいという想いが活動の原点になっています。
今後も、自分の想いを語る場、人とつながる場を継続して設け、不安感や孤立感を感じている人に寄り添いたいと考えている宗像さん。「安心して何でも話せる信頼関係が築けるまで、1~2年かかることもあります。想いや意見を伝える経験を重ね、そうしたやりとりを通じて、友達や仲間がいる安心感を育んでほしいと思っています。それが結果として、社会での自立につながっていくから。時間がかかってもあきらめず、想いを共有し、家族、地域のつながりをより深め、安心して生活できるようにフォローしていきたい」と力強く話しました。
(2014年2月インタビュー実施)