福島県いわき市で2011年に結成された「サンバ&アートグループ OVO NOVO(オーヴォ・ノーヴォ)」。「サンバのパーカッション演奏と皆で楽しめるアート活動を通じて、まちの人がつながる場をつくりたい」と、約35人の親子(半数は高校生以下の子ども)が中心となって演奏活動やワークショップを行っています。
グループ結成のためのミーティングを開いた2週間後に東日本大震災が発生。原発事故や津波の影響もあり、メンバーの多くが避難生活を余儀なくされるなど大きな困難に見舞われましたが、「こんな状況だからこそ仲間のつながりを大切にし、周りの人にも元気が届けられる存在でありたい」と、震災2カ月後の2011年5月から活動をスタート。力のこもった演奏と主力メンバーである子どもたちの笑顔はまちの人に元気や勇気を与えています。
小・中学生と保護者が中心の「ビッグファミリー」
自分たちの手でカラフルに彩色した打楽器で奏でる、軽快でエネルギッシュなサンバの演奏。通りすがりの人も思わず足を止め、リズムに合わせて手拍子を取ったり体を揺らしたり、自然に皆の心が一つになる——そのようなライブ活動を「OVO NOVO」(ポルトガル語で『新しい卵』の意味)は各地で展開しています。
立ち上げメンバーは、いわき市で2008年から3年間に渡り実施された、パーカッショニスト・渡辺亮さんによる連続ワークショップの参加者。事務局代表の前田優子さんによると、「パーカッションは年齢に関係なく、上手・下手も関係なく誰でも自己表現をできるのが良いところ。小・中学生とその保護者を中心に幅広い年齢層が集まり、楽しい経験を共にしました」。
ワークショップ終了後も活動を続けたいと、計画を進めていた最中に震災が発生。家を失い避難先を転々とする人も多く、存続は不可能とも思われました。しかし「震災2カ月後、東京から渡辺亮さんが駆け付けてワークショップを開いてくれた。その時、子どもたちが驚くほど明るい笑顔になったのを見て、なんとしても続けようとメンバーの意志が固まったんです」。
パーカッショニストとして多方面で活躍する渡辺亮さん(東京都・青山「こどもの城」講師)が、
打楽器の基礎や表現方法を指導。
子どもの居場所づくり、そしてまちの再生のために
公共施設の多くは避難所となっていたため、前田さんらは苦労しながら活動できるスペースを確保。「当初、一番の目的は子どもたちの居場所づくりでした。転校して友だちと離れ離れになった子どもも多く、外遊びの時間も制限されてストレスを発散できる場所もなかった。だから仲間が集まること自体が大事だったんです」。
そして、時間の経過とともに 、「多くの人と音楽の楽しさを分かち合いたい」「分断されたコミュニティ再生のために役立ちたい」という一人ひとりの思いがふくらみ、「OVO NOVO」の活動目標としてメンバー全員に共有されました。2012年以降は、月2回の自主練習と、年3回渡辺さんを講師に招いての練習が行える体制を整え、地域のお祭りや音楽イベントにも積極的に参加。反響は上々で、「演奏を聴いていると自然に笑顔が出てくる。来年もぜひ来て」といった出演依頼も。また市民参加型のワークショップも毎年開催。これらの活動を通して存在が広く知られるようになり、震災直後、50名から30名にまで減ったメンバーは徐々に増えています。
いわき市内のショッピングセンターのイベントで、渡辺亮さんとともに行ったライブ演奏。
思わず足を止めて聴き入る観客が多数。
子どもの考えや発想を尊重し、自主性を引き出す
子どもの主体性を重んじ、子どもが運営の一端を担っているのも「OVO NOVO」の特長です。月2回のミーティングには小・中学生も参加。「演奏会ではこんなことをやりたい」といったプランを出し、大人と対等に意見を交わすことも。「創作活動で大切な発想の面白さやエネルギーの強さは、得てして子どもの方が秀でている。大人は経験があるだけに発想が固まりがちですが、それを壊してくれるのが子どもたち。だから子どもの意見はできるだけ尊重します」(前田さん)。
初めはおずおずとした様子だった子どもも積極的に発言するようになり、自分が考えたプランを実行する力もついてきたと言います。例えば、ライブ演奏で楽器の紹介をする際、「『セリフは自分たちで考えたい』と子どもたちが言うので任せてみたら、楽器の特長や面白さが伝わるよう工夫し、しっかり進行役を務めてくれました」。また、ワークショップでは「美術が得意な子どもはものづくり体験の準備、音楽が得意な子どもは一般参加者の演奏サポート」など、それぞれの長所を生かして役割分担しています。
公民館を借りて月2回行っている自主練習。
年長の子どもがリーダーとなり、年下の子どもや新しく参加したメンバーをサポート。
子どもたちのエネルギーが活動のエンジン
「最近は、子どものエネルギーが『OVO NOVO』をけん引している」と前田さん。子どもたちの「上手くなりたい」という気持ちは大人以上で、「もっといろいろな楽器を演奏してみたい」「新しいリズムを覚えたい」といった要望が挙がることもしばしば。自主練習でも年長の子どもが率先してリーダー役になり、年下の子どもの練習をサポートしています。
そして子どもたちは日ごろの練習の成果が披露できる演奏会にも意欲満々です。2013年度には「いわき街なかコンサート」など6つの催しに参加。2014年4月には、これまでの活動の集大成となる発表会を市内の公共ホールで開催します。「困難を一緒に乗り越えてきた仲間との絆、そして様々なかたちで関わった地域の人との絆をこれからも大事にしていきたい」。そんな思いを胸に、一丸となって練習に取り組んでいます。