寄り添いから生まれる、親子がゆったり過ごせる屋内ひろば
<(特活)本宮いどばた会>

団体と助成の概要

 

 福島県本宮市で、障がいの有無に関わらず誰もが住みやすいまちづくりを目指して設立された「本宮いどばた会」。「住みやすいまち=子育てしやすいまち」という視点から子育て支援事業を展開。福島第一原発事故後は、外遊びを控えている子どもの居場所をつくりたいと、私設の子ども文庫を開設していた酒店「井筒屋」の協力を得て、屋内ひろば「子ども文庫井筒屋ひろば」を運営しています。趣のある蔵を改装した空間で、子どもは絵本を読んだり、読み聞かせに聞き入ったり、木のおもちゃで遊んだりしています。その間、母親はスタッフや他の母親とお茶を飲みながらのんびりと過ごすなど、親子がともに落ち着いて過ごせる希少な空間です。2013年度以降は、「おはなし会」「音楽療法」「ままカフェ」などのイベントも開催し、様々なつながりづくりに取り組んでいます。

 

 理事の平佳子さん。「子ども文庫井筒屋ひろば」には約1,200冊の絵本があり、
2013年にはロングセラーを中心に23冊を増冊。

 

障がい福祉の視点から子育て支援へ 

 身体を動かしストレスを発散できる屋内遊び場は市内にありましたが、「選択肢の一つとして、ほっとできる屋内の居場所があるといいなと思っていた」と話す理事の平佳子さん。活発に過ごしたい子どももいれば、静かに過ごしたい子どもや母親もいます。どの親子も自分に合った居場所を選べるように——。その視点は、本宮いどばた会の設立に関わりがあります。

 13年前、本宮いどばた会の設立メンバーに、車いすで生活しながら子育てをしている母親がいました。「車いすの人が街に出た時に感じる不便さと、ベビーカーを利用する母親の悩みが重なると気付いて、誰でも住みよいまちになるよう、井戸端会議をして考えていこうとなったのです」。地域を良くする一環として、子育て支援につながっていきました。

 

情緒のある空間が、落ち着きを生む 

 「子ども文庫井筒屋ひろば」の利用者は、市内とその周辺地域に住む0歳から小学校低学年の子どもと母親が中心です。2013年度は年間のべ約2,000人以上が訪れ、多い日には20人ほどの子どもが集まることもあります。

 「人数が多くても、子どもは意外に落ち着いています。普段走り回っている子どもも、ここに来ると絵本を広げたり、木のおもちゃで遊んだり。場の雰囲気が影響しているのか、気持ちが静まり自然になごんでいる感じです」。趣のある雰囲気を残しながら改装した、ぬくもりのある空間が子どもに及ぼす効果を感じています。

 見守る母親にとっても、「子どもがどこにいても見えるから安心」と、ほっとひと息つける場にもなっているのです。

 

スタッフが絵本の読み聞かせを行う「おはなし会」。
蔵という特別な空間で、子どもは物語の世界に入り込み、真剣に聞き入る。

 

親子に寄り添う家庭的な癒しの場 

 子育て経験のあるスタッフによる家庭的な雰囲気も、母親が訪れたくなる理由の一つです。利用する母親からは「スタッフの方と遊んでもらって、子どもも楽しそう」「赤ちゃんが生まれてから、ゆっくりとお茶を飲むのは初めてかも」との声も。

 スタッフは「逆に私たちが元気をもらっています」と、子どもと遊んだり抱っこしたり、読み聞かせをしたりして子どもが安心して過ごせる空間をつくる他、先輩ママとして母親の相談に乗ることも。

 「人に言えないストレスを抱えた母親が来て、『ここに居るとほっとできる。心が癒える空間』と言われたこともあります」と平さん。それは立ち入りすぎず、必要に応じて声をかけるという接し方や、肩の力を抜いて共に成長していこうとするスタッフの姿勢があるからでしょう。

 助成を活用し、おはなし会や、ままカフェなども開催。「お茶を飲みながらおしゃべりをしたい」という子育て中の母親の願いを応援するため、スタッフのアイデアを持ち寄り企画。初対面の母親同士が話しやすいように簡単な手芸をしながら毎月開催しています。「今まで友達がなかなかできなかったけれど、ままカフェに参加してつながりができた」との声もあり、利用する母親同士やスタッフとのつながりが生まれています。

 

本宮駅から徒歩3分と集まりやすい立地。
母親は気軽に「ままカフェ」に集い、お茶や編み物をするなど、くつろぎの時間に。

 

顔の見えるファミリーサポート拠点 

 屋内ひろばは、もう一つ「ファミリーサポート事業」の拠点としての役割も担っています。ファミリーサポートとは、子育て支援を受けたい人と応援したい人が登録し、託児や送迎を通して互いに助け合う地域の子育て支援サービスのこと。母親から子育ての悩みや困っていることを聞き、必要があればファミリーサポートの紹介や地域の子育て支援団体へつなぎます。スタッフ自身が託児を担う登録会員でもあるため、ひろばに通ううちに子どもがスタッフに慣れ、母親も安心して頼める「顔の見える」託児サービスなのです。

 ひろばの活動やファミリーサポート事業に触れることで、母親にも変化がみられるようになりました。「1年前は子育てで余裕のない状態だった母親が、ひろばに通うにつれ余裕ができたようです」。さらに「ひろばに通うことがきっかけでスタッフに加わる母親もおり、社会参加の第一歩を踏み出して生き生きしています」と平さんは頼もしく感じているところです。今後は、「他団体が運営する子育てひろばへの視察も行い、地域の子育て支援拠点としてみんなで成長していきたい」と想いを強くしています。

 

(2014年3月インタビュー実施)