「先生、ここはどう編めばいいの?」「マフラーなら編んだことはあるけど、こういう小物は初めて」。明るい笑い声に包まれながら、女性たちは器用に手先を動かしアクリル毛糸から色とりどりの作品を編み上げます。
震災後、それまで慣れ親しんだ隣人とは違う人たちと仮設住宅で過ごす女性たちのため、不安やストレスを減らし、仮設住宅に新しい交流が生まれる場を作れないかと始まった、「RQW(RQ被災地女性支援センター)」の「手づくり講座」。宮城県登米市、南三陸町、気仙沼市、石巻市の仮設住宅の集会所などで、編みものや縫いものを通して女性たちの交流の場づくりを行っています。
2011年9月から始まった手づくり講座には、宮城県内約37ヵ所において20代~80代の女性たちが参加しています。集まった女性たちにはスターターキットとして編み針や毛糸が渡され、RQWのスタッフなどが講師となりエコタワシや小物を作ります。回を重ねるごとに参加者が増え、ある仮設住宅ではRQWのスタッフがいなくても自主的に講座を開催するまでになりました。
女性たちが作る小物類の一部は、仙台や東京、さらにはニューヨークのチャリティーイベントなどで販売され、被災により仕事やよりどころを失った女性たちにとっての仕事創出の機会にもなっています。
取り残されがちになる女性や高齢者
RQWの母体は、震災直後から活動を開始した「RQ市民災害救援センター」。RQ市民災害救援センターは発災直後から宮城県登米市に拠点を構え、岩手県や宮城県でボランティア派遣による被災地支援をしていました。物資配布やニーズの聞き取りのため避難所を回るうち、避難所内に女性が着替えをするためのスペースがなかったり、女性の望まない形で物資配布が行われたりと、女性への配慮が後回しになっている現実が浮かび上がったといいます。
「これから長期にわたる復興過程の中で、社会的弱者である女性や高齢者が取り残されがちになるのではないかという懸念がありました」とはRQW副代表の石本さん。そして、物資配布だけでなく、中長期的な女性支援活動を行うため、RQ市民災害救援センターのスタッフの中から専任ボランティアを配置し、2011年6月1日正式に「RQ被災地女性支援センター」が発足しました。
孤立防止や暮らしの問題の把握にも
「みんなで集まってできるのが楽しい」「前回帰ったときから、今回が楽しみで」という声。手づくり講座に参加した女性から自然と溢れる笑みと明るい声で、この講座によるコミュニティが女性たちにとってどんなに大切なものか十分に伝わります。また、厳しい寒さにより引きこもりがちになる東北の冬において、女性同士で集まることができる温かい場は、仮設住宅の住民の孤立防止や状況把握のうえでも重要な役割を果たしています。
「手づくり講座は、一つのツールでしかありません。編みものをしながら何気なく口にする仮設住宅での問題、困りごとが解決されるようにサポートしています」と、講座を担当するスタッフ村松さん。「東北の女性は控えめなうえ、声をあげることに抵抗があるようで、面と向かって『さあ、何に困っているのですか』と聞いてもニーズは出てこないものです。何気ない雑談の中からポロリ、ポロリと落ちる一言ひとことを集めることが、遠回りのようでニーズ把握の近道だと思っています」。
そうした地道な活動により集められた地域住民の抱える問題は、他の支援団体との連携・調整のための連絡会で共有し、また他地域での諸課題を参考にするなどして、様々な角度から解決に取り組んでいます。
住民参加型のノウハウを学びながら
RQWが活動を進めていくにあたっては、被災地の地域性に詳しく、住民参加型のプログラム企画・運営に実績のある「特定非営利活動法人 都市デザインワークス」と協働しています。
その取り組みの一つ「手づくり講座交流会」は、地域の女性たちが自主的に「手づくり講座」を開催できるようになることを目指し、そのリーダーとなる「地域コーディネーター」の発掘・育成を目的とした交流会。地域コーディネーター候補たちが情報交換する場を設け、人との連携や地域課題への取り組み方について話し合います。この交流会において、都市デザインワークスは交流会のプログラムを提供し、司会進行や活発な意見交換のための場づくり方法などについてアドバイスを行っています。
また、女性たちの仲間づくりを兼ねた「スキルアップ講座」も開催。この講座は、販売する商品を自分で作ることができるようになるにつれ各家庭で内職的に商品を作る時間が増え、作り手同士の交流が希薄になってしまうことを防ぐことが目的。都市デザインワークスとの協働により外部から現役で活躍するデザイナーなどを講師に招き、商品としてのものづくりに必要な心がまえや、どんな工夫をすると良いかなどを学ぶと共に、他の作り手と交流する機会を設けています。
スキルアップ講座では、「ビジネスとして売ることは決して生易しいことではない」「手づくりの良さは、量産できないようなひと工夫を加えられること」などと、講師は自身の体験を交えながら熱心に語ります。また、それに応えるかのように真剣なまなざしで聞き入る女性たちの姿も印象的。さらに講師が自らミシンの使い方を見せたり、女性たちは自分の作品の改善点についての意見を仰いだりする場面も見られ、手しごとの難しさを理解すると共に質の高い商品を作ろうという熱意を高める機会となっているようです。
地域に根差した活動を共に
これまでマフラーや小物などの編みものを中心に活動してきた「手づくり講座」ですが、暖かくなるこれからの季節に合わせ、布を使った小物づくりなども新しく行う予定。これからの活動について村松さんは「コミュニティづくりのきっかけになればと始まった手づくり講座ですが、これからは、出来上がったコミュニティにおける様々な問題の改善や、つながりをさらに強くするために講座が役に立つのでは」と話します。また「私たちが入ることで地域に問題を生んではいけない。元々の地域のやり方があるから、私たちはあくまで後方支援に徹しています」とも。二人三脚で一歩ずつ進むRQWと共に、地域女性の新しい交流が少しずつ生まれ始めています。