帰る場所のない少年を受け入れ、自立・更生を支援
<特定非営利活動法人ロージーベル>

団体と助成の概要

 

 少年院で生活指導や教育を受けた18歳以下の子どもの中には、仮退院できる基準を満たしていても、身元引受先がないために仮退院できないケースが少なくありません。これは、犯罪に至る子どもの多くは親からの虐待・家庭崩壊等があり、親身になって子どもと関わる親や家がないことが原因です。

 特定非営利活動法人ロージーベルは、このような法制度と親の都合の狭間で困っている子どもに“帰る家”を提供しようと「ロージーハウス」を開設。社会復帰を目指す子どもにもう一度やり直す機会を設け支える、全国的にも数少ない民間団体です。

 2013年度は、こども☆はぐくみファンドの助成により組織基盤を強化。厳しい状況にある子どもの受け入れ体制を強化すると同時に、子どもの育ちを地域全体で支えていくためのネットワークづくりにも力を注いでいます。

理事長の佐竹えり子さんと事務局スタッフの吉田ゆかりさん。

ロージーハウスにて、理事長の佐竹えり子さんと事務局スタッフの吉田ゆかりさん。
家庭的な環境で少年たちを見守る。

 

一人一人の子どもに家族のように寄り添う

 

「非行に走った子どもの99・9%は家庭環境に恵まれておらず、約7割は親や里親による虐待の被害者。帰るべき家がないために社会復帰が遅れる事例が後を絶ちません」——代表の佐竹えり子さんは、保護司として罪を犯した子どもと関わる中で、子どもの置かれた厳しい状況を知り、「前向きに生きようと頑張っているのに報われない子をなんとしても助けたい」という思いから同団体を設立しました。

 2011年1月に名取市内の一軒家を借りて活動をスタート。常時2~4名の子どもを受け入れ、寮母や佐竹さんらスタッフが24時間体制で見守っています。2013年秋までに受け入れた延べ15名は全員が虐待の被害者で、中には虐待から逃れるために家出し、ひもじさのあまり弁当を万引きして補導された少年も。また“津波で家が流出した”“震災後父親の家庭内暴力(DV)が酷くなり家族が離散状態”など、震災の影響でより深い傷を負った子どもが大半です。 

 顧問、理事には心理的なケアの専門家や弁護士などが名を連ね、多方面から子どもをサポートしているのが同団体の特長ですが、「なにより大事なのは一人一人の子どもに愛情をそそぎ、家族のかたちを知ってもらうこと」と佐竹さんは強調します。

「子どもたちが帰ってきたら“おかえり!”と出迎え、みんなで一緒に夕食を食べて、テレビを観たりおしゃべりしたり。そういう当たり前の家庭を知らない子に家族ってこういうものだよと知ってもらい、将来、温かい家庭をつくってもらうことが私たちの願いであり目標なんです」

佐竹(大沼)えり子さんの著作「ガラスの牙」

佐竹(大沼)えり子さんの著作は「ガラスの牙」のタイトルでドラマ化され話題に。
収益は少年の家事業の資金となった。

 

子ども自身が変わり、周囲の見方も変わる

 

 同団体のもう一つの大きな役割は、受け入れた子どもに就労先を紹介し、自立までの道筋をつけることです。就職マッチングに100%成功しているのが同団体の自慢でもあり、少年たちはここで規則正しい習慣を身に着け、ロージーハウスを出て自活していくための資金を貯めた後、巣立っていきます。

 周りの大人を信じられず、長く荒んだ生活をしていた子どもが別人のように明るくなり、社会復帰していく様子にスタッフが驚くことも。少年自身が心情をつづった作文には、「独り立ちできるまで面倒みるから心配ないよと言われ暗雲が晴れた」、「こんなによくしてもらえるなんて信じられなかった」といった言葉が連なり、親身に支えてくれる人がいることで心が安定し、一人の社会人として立ち直っていく様子がうかがえます。

 彼らの変化は“元・非行少年”に対する周囲の目をも変えています。開設時には近隣住民の反対の声が多かったため、佐竹さんは一軒一軒頭を下げて説明し、子どもには「近所の方へのごあいさつ」とごみ収集のお手伝いを義務付けたとか。そうした佐竹さんらスタッフと子ども一人ひとりの努力する姿の相乗効果で「地域の皆さんが温かく接してくれる。むしろ応援してくれる人が増えた」といいます。

 

より多くの子を長く見守れる体制を

 

 ロージーベルの一番の悩みはスタッフ不足でしたが、2013年度はこども☆はぐくみファンドを活用して事務局スタッフ1名を雇用。新たな戦力を得たことで組織基盤強化のための取り組みがスムーズに進行しました。その一つ、入所する子どもを共に支えてくれる人材を発掘・育成するためのボランティア養成講座には約60名が参加。そのうち3名がボランティアスタッフとして活動を始めています。

 また組織運営のノウハウを学ぶため、同じような取り組みをする先駆け的な団体を視察。数名のスタッフとともに視察した佐竹さんは「実践的な知識が得られただけでなく、ロージーハウスの今後の在り方を深く考えさせられ、ますます意欲がわいた」と笑顔で話します。

 

困難に直面する子ども支援に取 り組む団体を視察。

“子どものシェルター”“自立援助ホーム”を運営し、困難に直面する子ども支援に取り組む団体を視察。
ノウハウを学んだ。

 

「これまでは受け入れた子どもを5、6ヵ月で独立に導いていましたが、それでは中途半端ではないかと。精神的にも経済的にも完全に自立できるまで、長期にわたって見守る体制が必要と痛感しています」

 将来的には、より多くの子どもを引き受けられる“家”を建設し、長期にわたって関わるための体制を——。そんな未来に向けて一人ひとりの子どもの不安や葛藤と日々向き合い、地道かつ情熱的に活動を続けています。

(2013年8月 取材実施)