“リトミック”や“体遊び”で子どもの健やかな育ちを応援
<特定非営利活動法人子育て支援グループこころ>

団体と助成の概要

 

 福島県二本松市の乳幼児を抱える家庭では、放射線の影響を心配し、子どもの外遊びを控えさせることも少なくありません。そのためお母さん自身のストレス、そして子どもの体力低下や心理面にあたえる影響も懸念されています。そこで震災前から地域に根づいた活動を行ってきた「特定非営利活動法人子育て支援グループこころ」は、「屋内で楽しく体を動かし、ストレスを発散してもらおう」と、親子向けの“リトミック”、“体遊び”を定期的に実施。また浪江町など沿岸部からの避難者が3,000人規模に上る(2013年復興庁調べ)ことから、慣れない土地で困っているお母さんのサポートも緊急の課題と考え、きめ細かな支援を行っています。

リトミックの様子リトミックの様子

 

思いきり体を動かし、親子でスキンシップ

 

 ピアノのリズムに合わせて親子でスキップしたり、ドンという音を合図に座ったり。二本松市市民交流センターで行っている0歳~5歳児向けの“リトミック”には、お母さんと子どもたちの笑顔、歓声が溢れています。理事の中野真理子さんによると、「リトミックとは情操教育の一環のリズム遊び。合図に応じて機敏に反応する力を養う狙いもありますが、ここで行っている一番の目的は親子で楽しんでもらうことです」。0歳児の場合、お母さんの膝の上で体を揺らす、“高い高い”をしてもらうなど、親子のスキンシップを重視しているのも特長といえます。

親子で楽しく体を動かす“リトミック”は、認定資格を持つ中野さん(写真・後列左から2番目)が先生を務める。親子で楽しく体を動かす“リトミック”は、
認定資格を持つ中野さん(写真・後列左から2番目)が先生を務める。

 

 同じ建物内の広いスペース(多目的室)で行っている“体遊び”も未就学児と保護者向けのプログラム。前半の30分はインストラクターの指導で「“走る・跳ぶ・転がる”といった基本動作と遊びの要素を取り入れた運動」を。そして後半の約30分はトンネル・マット・鉄棒・トランポリンなどの遊具を活用し、親子で自由に遊ぶ時間に充てています。

体遊びの様子

走る・跳ぶ・転がるなどの基本動作と遊びの要素を取り入れた“体遊び”。
タオルを使うなど家でも楽しめる遊びも教えてくれる。

 

 子どもたちの豊かな心を育むために

 

“リトミック”、“体遊び”とも週1回無料で開催しており、参加者(毎回20人前後)へのアンケートでは「楽しかった!」、「こんなに体を動かしたのは久しぶり」といった声が大多数を占め、大好評。お母さん同士の仲間づくりの場ともなっています。

「ここに来るお母さんは子どもとの関わりを大切にしている方がほとんどですが、昼間は屋内の遊び場を転々としている、また放射能の影響が子どもに及ぶことを心配し、母乳をやめ粉ミルクで育てているなど、皆さん不安やストレスを抱えています」と、中野さん。そのようなお母さんたちに子育ての楽しさを実感してもらい、「親子、母親間のより良い関係づくり、そして子どもの豊かな心を育むお手伝いをするのが私たちの役割」。そして“震災から数年経って、子どもの心の傷が思わぬ形で表面化することがある”という阪神淡路大震災の教訓を踏まえ、「こうしなさいと型にはめず、自由に遊ばせて子どもの心を解放することが大切」と強調します。

 

子育て世代の多様なニーズに対応

 

 こうした親子向けの催しを開催するもう一つの目的は、「孤立しがちな避難世帯や、震災の影響で子育ての負担感が増したお母さんたちに、市や団体が提供している支援サービスを知ってもらうこと」です。

 同団体が行っているサービスは多岐にわたりますが、設立当初から活動の柱としてきたのが「ファミリーサポート事業」。これは病児の預かり、保育施設や学童クラブへの送り迎え、冠婚葬祭時の一時預かりなど、子育て世代のありとあらゆる“困った!”に応える会員制の互助組織で、中野さんら専任スタッフが“援助を受けたい人(依頼会員)”と“援助を行いたい人(提供会員)”のつなぎ役となり、年間1000件前後の依頼に対応しています。「子どもが熱を出したので、午前9時までに預かりに来てほしい」といった緊急依頼にも対処できるのは、地域に広いネットワークを持つ同団体ならではの強みです。

 

小さな声のSOSにこそ耳を澄ましたい

 

 そして同団体の活動のもう一つの柱は、“リトミック”の開催場所でもある市民交流センター2階「子どもの広場」の管理運営。広いスペースで親子がのびのびと遊び、様々な情報が得られる地域の子育て拠点であり、育児相談、子どもの一時預かりも行っています。   

親子で楽しめる「子どもの広場」

遊具や絵本を自由に利用し、親子で楽しめる「子どもの広場」。
大きな窓から外光が注ぎ、屋外にいるような解放感がある。

 

 原発事故の影響で二本松市から他県に転居した子育て世代もいて、震災後は「子どもの広場」の利用者数が半減しました。しかし沿岸部から避難してきたお母さんの利用は増加しており、「避難先を転々としたため子どもが不安に感じているようだ」、「働きたいが、子どもをどこに預けたらいいか…」といった様々な相談に応じ、支援につなげています。将来的には「お母さん同士がお茶のみしながら、気軽に悩みを話せる場づくり」、また「“リトミック”や“体遊び”の開催場所を増やし、足の便がない方も参加できるようにしたい」など、やるべきことは山積みだといいます。

 多様な要望に応えるには、スタッフの数・質の向上も必須です。そのため毎年、各事業の新規スタッフを養成する講習会を開催している他、現場で活動しているスタッフ向けのスキルアップ研修も毎年実施。

「聞こえにくい小さな声のSOSにこそ応えていかなくては」と、日々奮戦しています。

(2013年10月 取材実施)