岩手県陸前高田市広田町黒崎地区にある約1万平方メートルもの敷地を利用した子どもの遊び場「冒険あそび場まきばっこ」(以下、まきばっこ)。子どもたちが思う存分駆け回れる野原に、幅5メートルはあろうかという巨大すべり台や、木の枝にロープを結んで作ったブランコなど、木製遊具が点在。敷地内には「まきばっこハウス」と呼ばれるプレハブ施設もあり、母親たちが気軽に集える居場所になっています。これらは「あゆっこ応援団」がローズファンドの助成を活用し、運営・管理。震災で流失した子どもたちの遊び場の役割を担っていると共に、子育て中の母親たちや地域住民の憩いの場として親しまれています。
子どもが生き生きと遊べる場を
岩手県の沿岸部に位置する陸前高田市。海沿いに平地が広く続き、そのほとんどが津波の被害を受けた地域です。子育て中の母子の交流の場となっていた「陸前高田市地域子育て支援センター(通称あゆっこ)」の建物も流失。センターを利用していた母親たちは、震災後の生活に不安を抱えながらの子育てには支え合うことが必要と考え、ボランティアで陸前高田市に入っていた小泉寛文さん(現事務局長)と一緒に母親たちが互いにサポートしながら子育て環境を整えようと「あゆっこ応援団」を設立。活動が始まりました。
「あゆっこ応援団」がまず取り組んだのは、子どもの遊び場づくり。母親たちが元気でいるためには、子どもが生き生きと遊ぶことのできる場が不可欠です。「あゆっこ応援団」の代表で、自身も子を持つ母親である小出(旧姓村上)あゆみさんは、自身の父親を中心に地元に住む60代~70代の漁師などに協力を仰ぎ「遊具制作支援チーム」を結成。手づくりでの遊具製作に取り組みました。すべり台やブランコなどの遊具だけでなく、大きなやぐらや、木製の五右衛門風呂が完成しました。
地域住民の協力を得て「まきばっこ」は2012年7月にオープン。公園は津波の被害を受け、学校の校庭には仮設住宅が建ち、子どもが外で遊ぶ場所のほとんどが失われた陸前高田市。完成以来、たくさんの子どもたちが訪れています。夏になると、手づくりウオータースライダーも登場。震災の影響で未だ海水浴場はひとつも再開しておらず、水遊びができる貴重な場として「市外から車で1時間以上かけて遊びに来る親子もいます」(小泉さん)。
敷地内にある遊具は全て地元の漁師らによる手づくり。地域の協力を得て「まきばっこ」は完成した。
母親の駆け込み寺のような存在に
同団体が続いて取り組んだのは、母親たちが集う場づくり。もともと核家族が少なく多世代が助け合いながら暮らす地域であることも関係し、狭い仮設住宅でも3世代で一緒に住み続ける世帯も少なくありません。母親たちが気軽に集まり気持ちを吐き出す場所もほとんどなく、ストレスで母親が子どもに手をあげてしまう危険性も問題視されています。
「不安を共有したい・姑との関係がうまくいっていないなど、悩みを抱える母親の駆け込み寺のような場をつくりたい」と、2012年11月「まきばっこハウス」を完成させました。以来、母親同士が気軽に集まり、子育てや生活の悩みを共有できる場となっています。
「もともと、母親たち自身がお互いにサポートし合い、楽になるようにと始まった『あゆっこ応援団』。ふらっと来て母親同士で世間話をする中で、ぽつりと子育ての悩みを漏らすこともあり、子どもと離れて過ごす時間を作ることでリフレッシュできるようです。母親自身の気持ちが楽になると、家庭内も明るくなる」と小泉さん。「まきばっこハウス」は、震災後不安を抱えながら子育てをする母親たちにとっての、心の拠り所となっています。
「まきばっこ」内にある「まきばっこハウス」。母親たちが気軽に集える居場所となっている。
地域住民を巻き込んだイベント開催
「あゆっこ応援団」は、母親たちのアイデアから生まれた、料理教室や音楽のワークショップなど様々なイベントも開催しています。2013年6月には「まきばっこ」にてバーベキューと引き馬のイベントが開催され、子どもや保護者、仮設住宅に住むお年寄りなど述べ約200人が参加。子どもたちが自然と調理を手伝ったり、父親が力仕事を担ったりと、地域住民は参加するだけでなく、一緒にイベントをつくり上げる存在となっています。こうした地域住民を巻き込んだイベントづくりが、子どもを地域全体で見守る気持ちを育み、「まきばっこ」が地域に根差す遊び場として認知されることにもつながっています。
「やってみたい」を互いにサポート
同団体の主なメンバーは、子育て中の母親たち。イベントやワークショップにおける企画づくりの経験がないメンバーもいる中で、「やってみたい」を形にしていく過程や、書類作成などを小泉さんがサポートする形で企画づくりを進めています。
団体の設立から母親たちを見守ってきた小泉さんは、「やってみたいことにチャレンジしていいんだ、と少しずつ積極的になってきた」と変化を感じています。そして何よりうれしいことは、「震災後に家族や家を失い泣いてばかりだったお母さんたちの顔に、笑顔が多くなったこと」だと話します。
今後は和裁や音楽など、様々なワークショップを開催予定。幅広い世代が参加しやすい企画づくりに挑戦し、まきばっこを通して地域のつながりがより深まることを目指しています。
小泉寛文事務局長。母親たちの「やってみたい」を形にするサポート役として、団体設立から見守り続ける。
(2013年10月取材実施)