「たくさんのものを失った中で、どのようにまちづくりが進んでいくのか——。その過程を共に歩みたいと思ったんです」。震災後のボランティアを経て、福岡県から陸前高田市への移住を決めた山本健太さん。仮設店舗が集まった「高田大隅つどいの丘商店街」のスタッフとして、仮設商店街の活性化や商店事業者同士の連携、まちの魅力のアピールに取り組んでいます。
高田大隅つどいの丘商店街の山本さん(右)を、
レスパイトハウス・ハンズの小野さんがサポートし事業者同士の連携を進める。
本設の商店街に向けたつながりづくり
多くの商店が立ち並ぶ中心市街地が丸ごと津波にのまれた陸前高田市で、山本さんは2013年1月から「商店街連携コーディネーター」として奔走しています。震災後、仮設の商店街が市内5カ所でオープンしていますが、いずれ仮設から本設の商店街へ移り、接点のない事業者同士が一緒の商店街で仕事をしていく可能性も。「地域全体で魅力的なまちづくりを進めるためには、今から事業者同士のつながりをつくり考えを共有する場が必要」と山本さんは語ります。
そうして2013年5月から始まった「商店街連携会議」では、5カ所の仮設商店街に入居する事業者の他、行政機関(商工観光課・商工会)や、岩手大学も参加。それぞれが共通して必要性を感じていたのが、地域全体で陸前高田の魅力を発信すること。「例えば観光客が“奇跡の一本松”を見学しても、そこから近い飲食店や商店街がどこにあるのか分からなくて、そのまま帰ってしまう。これではもったいないですよね。すでにある魅力を再発見し、継続的にアピールするためにどうしたらよいかと、活発な意見交換がありました」(山本さん)。そして岩手大学の学生グループ「岩大E-code(イーコード)」と協働し始まった取り組みが、陸前高田の魅力を発信するガイドブック「たかたび」の制作です。
陸前高田のファンを増やしたい
「たかたび」は「陸前高田のファンを増やす」ことも狙い。そこで「ガイドブック作成キャンプ」として、体験型で取材活動に取り組めるよう工夫を凝らしました。インターネット上で呼びかけたところ、東京や大阪など県外から約20人の参加を得ることが出来ました。2泊3日のキャンプを2回開催。取材の仕方や写真の撮り方を学ぶことから始まり、実際に商店を取材し原稿を作成。参加者からは「観光に来たことはあったが、地元の人と話すきっかけがなかったので嬉しい」という声もあり、取材自体が県外のファンを増やすことにもつながりました。また、地域外の目線を生かすことで、地元住民が気付かない魅力を発掘することもできました。
「たかたび」は陸前高田の魅力が詰まった98ページの冊子となり、2014年2月に1万部を発行。全国各地に配布が進められています。
発行された「たかたび」。取材者のコメントも掲載されている。
朝市の再開で再びつながりを
ガイドブック制作と並行して動き出したのは、震災前に市内で開かれていた朝市「まぢのひ」の再開です。震災後途切れてしまった朝市を復活させることでかつてのつながりが戻り、販売者同士が顔を合わせて話し合うきっかけになるのではと、2013年5月に再開しました。以降、高田大隅つどいの丘商店街の駐車場で月3回開催。地域内外から毎回10人ほど集まり、野菜や海産物などを販売しています。
「まぢのひ」は毎回多くの買い物客が訪れ、中には近くの仮設住宅に住む高齢者も。市内の車を持たない世帯では、食品を購入する場所が巡回する移動販売車に限られることも多く、産直野菜などが手に入る「まぢのひ」は、近隣の住民にとって欠かせない存在になりつつあります。
毎月3回、朝市「まぢの日」が開かれ、野菜や海産物などが並ぶ。
これを目当てに訪れる客も多い。
経験を生かし運営のサポート
こうしたまちの活性化に向けた取り組みを陰で支えるのは、陸前高田市や一関市でNPOなどの中間支援を行っている「レスパイトハウス・ハンズ」。経験を生かし、連携の進め方や会議の進行方法などのノウハウを提供しています。
「地元で長く事業をしている人たちと関係性を深めていく上で、レスパイトハウス・ハンズが持つ元々のつながりやノウハウの面でのサポートによりスムーズに進んでいます。また、まちの活性化・まちづくりに必要なことを学ばせてもらっています」と山本さん。レスパイトハウス・ハンズの小野代表は、「日に日にまちに入りこみ、多様なつながりをつくり出す姿に頼もしさを感じています。外部組織ではなく商店街の一員として、山本さんが商店街や事業者同士の連携を進める意義は大きい」と期待を寄せています。
商店街連携コーディネーターとして2年目を迎える山本さん。「今後は商店街連携会議をさらに発展させ、事業者など声をまとめて行政に届ける提言活動をしていきたい。長期的な取り組みに向け、地元事業者の中からリーダーとなって活動していく人を発掘できれば」と意気込みます。また、商業面だけでなくまち全体の活性化も重要な視点。先進的なまちづくりを学ぶため、事業者と共に他地域の視察活動にも取り組み始めました。「人が集まるまちづくりがどのようなものか、多様な人が集まり考える場が必要」とも。誰もが住みやすく魅力溢れるまちづくりに向け、今後もチャレンジが続きます。
高田大隅つどいの丘商店街では、地元中学校の吹奏楽部による演奏や、
夏祭りなども企画され、多世代が交流できる場に。
(2013年10月インタビュー実施)