福島の子どもたちにとって身近な週末野外楽校
<特定非営利活動法人 あぶくまエヌエスネット>

団体と助成の概要

活動写真01

 

 震災後、福島県内では放射線の影響を心配し、外遊びに時間制限やマスク着用などの約束事を決めた家庭が90%にのぼると言われています。

 自然の中で思う存分駆け回ることが出来なくなった子どもたちのストレスをやわらげ、緑や土を感じられるように——。「あぶくまエヌエスネット」では、週末の野外プログラム「ぽんた山元気楽校(がっこう)」を開催しています。開催地は、県内で相対的に見て放射線量が低い県南の鮫川村。移動や費用の負担が少なく心身も開放できる場所として、福島の子どもたちが集まり、里山や雪山を駆け回っています。

 

活動写真02 野山や川で、日が暮れるのも忘れて遊び続ける子どもたち。
見守るスタッフや保護者も、共に遊ぶ仲間になる。

 

子どもたちのガマンの限界を感じて発起

 「土・自然から学び共に生きよう」を理念に、2003年から山村留学の受け入れを始めて約10年。理事長の進士徹さんは震災後すぐに、山村留学を利用したことのある福島県内の子どもたちの保護者約60人に状況確認アンケートを送りました。

 返信された自由記入欄に書かれていたのは、「子どもの大好きなスポーツクラブが解散になった」「無意識に眉毛を抜く」「福島がいい。また山村留学に参加したい」といった内容。子どもたちのストレスを軽減するには、放射線量を気にせず自然に触れられる機会が必要だと感じた進士さんは、夏休みや冬休みに県外で体験する林間学校「ふくしまキッズ」の活動を思い立ちます。エコツーリズムの仲間や山村留学関係の団体などとのネットワークにより、自然体験プログラムを組み、参加者を募集。2011年夏には、福島の子ども500人を引率して「ふくしまキッズ夏季林間学校」を北海道で開催しました。

 その後、保護者から夏と冬の「ふくしまキッズの活動まで待てない」という声があがるように。たまたま出会う機会があった放射線専門の大学教員に鮫川村の放射線量を相談したところ、「その値であれば、屋外でも思いきり活動できる」という回答を得ました。そこから、月1~2回週末に日帰りや宿泊で体験する野外プログラム「ぽんた山元気楽校」の活動が始まりました。

 

活動写真03

飼育しているニワトリの鶏糞などを肥料にして栽培した野菜は、
役場で線量を測定し、手作りピザにトッピング。

 

プログラムがないのが「プログラム」

 自然に触れられる「ぽんた山元気楽校」を訪れると、例えば次のような1泊2日が待っています。

 1日目の夜は、ドラム缶風呂に入浴し、食事、そしてホタル観察。宿泊は、囲炉裏のある農家の宿・リゾート風ホワイトハウス・川の上のデッキ式コテージの3つから好きな施設を選びます。初めて出会った子ども同士が仲良くなり、寝静まるまでしばらくかかることも少なくありません。

 翌朝は7時に起床。その日行われる活動の中から、好きなものに取り組みます。ウォールクライミング・川遊び・住み家づくり・畑仕事の手伝い・生き残り術レクチャー・読書・ピザ生地づくりなど、さまざまなプログラムが用意されています。敷地内には丸太を吊るした“びびり橋”もあり、どうすればケガをせずに遊べるのか自分で知恵を働かせる機会もあります。

 決まりごとは、ただ一つ。何をして過ごしてもいいけれど、一人では遊ばないこと。子どもたちは自ら「これをしたい」と取り組み、目標を達成すると次のやりたいことへと駆け出していきます。子どもたちを見守る進士さん夫妻や企業からのボランティアスタッフ、NPOの仲間は「指導者ではなく、共に遊ぶお兄さんお姉さん」として関わります。

 冬になっても子どもたちの数は減ることなく、マイナス10℃まで下がる真冬にも、30人を超える子どもたちが訪れます。寒さを気にせず、雪の中を走り回る子どもたち。「体が要求しているんでしょう。帰ったら、またガマンの生活になると分かって遊んでいるんです」と進士さん。参加した子どもたちからは「たった2日間とは思えないほど、たくさん遊んだ」「新しい友達ができてうれしかった」といった声が聞かれ、日帰りの予定だった子どもが「楽しすぎて、お泊まりに変えたい」と言い出すことも。子どもたちと間近に接しているボランティアリーダーは「雪合戦をしたり、草原を走ったり、自然の中でのびのび過ごしている時の子どもたちの笑顔は、心からの笑顔」だと印象を語ります。

 

活動写真04活動を通して「元気で健康な子に育つように応援する大人」がいることを、
子どもたちに伝えたいというスタッフ。

 

来る前はワクワク、帰った後も笑顔が持続

 子どもたちの変化を最も感じとっているのが、保護者です。「普段は1膳食べるのがやっとの子が、ぽんた山元気楽校に来たらおかわりをしていた」「家ではテレビとゲームが手放せない子が、もっと泊まりたいと電話をかけてきた」「3日前から楽しみで眠れなかったみたい。今回は体操係だからと紙に体操の順番を描いていた」。いつもとは違う子どもの様子を伝えてくる保護者の声も弾んでいます。

 ここでは、子どもたちは単なる参加者ではなく、ぽんた山元気楽校を一緒につくる仲間と位置づけられます。住み家づくりとなると子どもたちは自発的にのこぎりを使って椅子や机を作り、自分たちが食べる野菜の畑仕事も手伝います。自分の役割を意識し、生活に関わることで自立心が養われていきます。そうして生きる力や自然との共生観が高まっていくのです。

「派手なものはないけれど、ゲーム機よりアミューズメントパークより、自然の中で体験するほうがもっと価値があると、子どもたちが感じられるところになれたら」と進士さんは願っています。

(2013年11月インタビュー実施)