障がいを持つ子どもの社会的な自立と家族同士の交流をサポート
<特定非営利活動法人 ふよう土2100>

団体と助成の概要

 

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 震災・原発事故で避難を余儀なくされた人の中でも、障がいを持つ子どもとその家族はとりわけ厳しい状況に置かれています。環境の変化に弱い自閉症や発達障がいの子どもにとって、不馴れな土地での仮住まい生活そのものが大きなストレス。親にとっては安心して子どもを預けられる施設や、親身に相談に乗ってくれる人を見つけにくいのが悩みです。

 福島県内でまちづくり活動を行っている「ふよう土2100」は、自身が障がいを持つ子どもの親である副理事長の大澤康泰さんが中心となって2012年5月、郡山市に「交流サロンひかり(以下、「ひかり」)」を開設。障がいを持つ子どもの日中の一時預かりや放課後のケアを行うことで居場所をつくり、身の回りのことができるようサポートすると同時に、“家族同士が子育ての悩みを共有し、ともに解決していける場づくり”に取り組んでいます。

 

一軒家を借り、家庭的な雰囲気で子どもをケア 

 沿岸部からの避難者の受け皿となっている郡山市は、震災前から障がいを持つ子どものデイサービス施設が不足していた地域。大澤さんによると、「自閉症で養護学校に通う私の子どもは、放課後預かってくれる施設を曜日ごとに転々とし、それが本人にとっても大きなストレスになっていました」。震災後はさらにニーズが増えたため、重度障がいの子どもは利用を断られるケースも。当事者として、避難家族がより困難な状況にあることは容易に想像がついたといいます。

 そこで同団体の理事長・里見喜生さんとともに「ひかり」設立に向けて奔走。郡山市の閑静な住宅地の一軒家を借り、まずは家族同士の集いの場としてスタート。徐々にデイサービス施設としての機能を充実させました。現在は、年末年始とお盆を除き午前9時から午後6時まで、ホームヘルパーの有資格者など、スタッフが常駐し送迎も行っています。「ひかりに一時預かりを頼めるようになって、震災後初めてゆっくり体を休めることができた」という利用者もいます。

 

郡山市「交流サロンひかり」にて、二人三脚で開設に向けて尽力した
理事長の里見喜生さん(左)と、副理事長の大澤康泰さん(右)。

 

子どもの個性を尊重し、それぞれの長所を伸ばす

 「多様な子どもが一緒に過ごすことで社会性や思いやりの心がはぐくまれる」という考えから、障がいの程度や種別を問わず受け入れているのも大きな特長。月のべ70名~80名ほどの利用者は軽度の発達障がい、重度の自閉症、脳性まひ・聴覚障がいなど様々です。そのため日中の過ごし方は画一的ではなく、「子どもの個性を尊重し、一人ひとりのペースに合わせる」のがモットー。例えば、養護学校に通う子どもを預かる場合、「宿題を終わらせたら好きな遊びをしようね」など、無理のない範囲で学習と遊びの時間を配分します。

 遊びの中にはバランスボールなど体の平衡感覚を養う運動なども取り入れている他、「お絵かきが好きな子には絵を描いてもらって部屋に飾る」といった工夫も。「障がいを持つ子どもの親は子どもができないところに目が行ってしまいがちですが、それぞれ得意なことがあり、日々成長しています。一人でトイレに行けて偉いね、ごみ箱にごみを捨てられたねと、一つのことができたら褒めてあげることがとても大切」。できることは自分でするように働きかけ、成功体験を増やすことが子どもの将来の自立につながると強調します。

 

クリスマス会には絵本の読み聞かせボランティアも参加。
仮装大会も兼ねており、子どもたちは思い思いの衣装でお話に聞き入る。

 

外出・外遊びを通じて子どもの成長をサポート

「ひかり」では春・夏・冬の学校の長期休み中の預かりも行っています。天気がいい日には公園で遊び、時にはスタッフと一緒に買い物に出かけることも。「子どもが大きな声を発してしまうからと外出を制限する保護者もいますが、子どもが外で遊びたいのは当然ですし、新しい経験は大きなプラスになる」と、大澤さん。象徴的な例が、夏休み中に預かった小学2年生の女の子で、「自転車に乗れるようになりたい」という希望に応え、スタッフが付き添って練習したところ2週間ほどで乗れるように。子どもにとって大きな自信につながり、保護者は「うちの子にこんな力が!?」と驚いたとか。このように臨機応変な対応ができるのもNPOが運営する施設ならではの強みといえます。

 

クリスマス会では子ども一人ひとりにスタッフがプレゼントを渡す。
サンタクロース姿の里見理事長と、嬉しそうに微笑む女の子。

 

きょうだいを含め、家族同士がつながる場に

 子どもの自立支援と同時に、同団体が力を入れてきたのが家族へのサポート。親同士が集まって子育ての悩みや解決法を本音で話し合える機会をつくろうと、交流会や無料の相談会も開催しています。「障がい児・者への理解が日本ではまだまだ不足しているため、子どもに障がいがあることを隠している方や、周りの目を気にして家族での外食を避けている親御さんも少なくない。当事者にしか分からない悩みを分かち合うことで抱えているものが軽くなり、子どもにも優しく接することができるようになる」と大澤さん。

 さらに障がいを持つ子どものきょうだいへの配慮から、夏祭り・クリスマス会などの催しには家族ぐるみの参加を呼びかけています。「イベントをきっかけに、きょうだい同士も意気投合して仲良くなることも多い。今後はもっと交流の機会を増やしたいと思っています」。同団体が目指しているのは、障がいを持つ子どもが成人した後も家族ぐるみで支え合う関係づくり、そして障がいの有無にかかわらず誰もが生き生きと輝ける地域社会づくりです。その実現に向けて、今後も息の長い活動を続けていく考えです。

(2013年12月インタビュー実施)