東日本大震災の津波によって大きな被害を受けた東北の沿岸部。中でも、宮城県亘理町は町の面積の約半分が浸水し、多くの住民が住まいを失いました。近隣の市町に移転して新たな生活を始める人も多く、人口の流出が大きな課題となっています。そんな中、亘理町に拠点を置く「ふらっとーほく」は、宮城県亘理町、山元町、福島県新地町を舞台に地域の活性化を目指す「まちフェス~伊達ルネッサンス~」に取り組んでいます。地域住民のチャレンジを地域内外の人が応援するプロジェクトが盛り上がりを見せています。
地域の魅力を掘り起こすカギは「達人」
人は誰しもひとつやふたつ特技や趣味を持っています。そして、それが地域に密着したものであることも多くあり、周りから見れば「達人」の域に達している場合も。「まちフェス」は、地域内外からの参加者が、そういった地域の「達人」の特技や趣味を一緒に体験し、交流するプログラムを集めたプロジェクトです。約1カ月の期間中に20前後の体験型プログラムが開催されます。2013年1月から始まり、2014年4月までに3回実施されました。
プログラムの内容は「蕎麦手打ち体験」「写真講座」「ヘリコプター搭乗体験」など様々。ほとんどのプログラムが定員を15人前後に設定しているので、「達人」は参加者と丁寧にコミュニケーションをとりながらプログラムを進めることができます。参加者からは「地域の魅力的な人や環境に改めて気づくことができる」と好評で、毎回300人以上が参加しています。
「まちフェス」に取り組むようになったのは、ふらっとーほく代表理事である松島宏佑さんが、発災後亘理町で様々な復興支援活動に取り組むうち、困難な状況から立ち上がろうとする地域住民と、地域外で応援している人をつなぐ仕組みが必要と考えるようになったことが始まり。そんな中、「実は昔つくっていた焼き肉のタレをもう一度つくりたいと思っている」という一人の女性に出会い、地域内外でこの女性のチャレンジを伝えたところたくさんの協力者が現れ、ついには商品化されるまでに。この経験を生かし、チャレンジしたい人を応援しようと、他地域での地域活性化手法を取り入れながら、まちフェスは動き出しました。
2回目のまちフェスからは、小学校へチラシを配布するなど
広報にも工夫を加えたため、親子での参加も増えている。
学生や若者が「達人」をサポート
「達人」の発掘には、地域コーディネーターと呼ばれる学生や若者が協力しています。まちフェス実行委員会事務局の阿部結悟(ゆいご)さんは、地域住民に声をかけ信頼関係を積み重ねるうちに、「実は、やってみたいことがある」「自分の住む地域が好きで、もっと良くしたいと思っている」という人が多くいることに気が付いたと言います。「強い想いを持っている人が地域にたくさんいると再確認した。でも、シャイな方や言葉にするのが得意ではない方もたくさんいる。そこをいかにまわりでサポートし、一緒につくりあげていくかが、まちフェスの醍醐味」と阿部さん。
プログラム開催までには、3地域の達人と地域コーディネーターが集まり、プログラム内容の検討や課題の共有などをする場が設けられました。「違うエリアだからこそ気兼ねなく話せることもあったようです。お互いを補完しあうような関係性が築かれていたように思います」(阿部さん)と、達人として参加した地域住民のケアにつながった側面も見受けられました。また「3地域で開催したことにより、これまで関わりの薄かった地域間で仲間としてのつながりが生まれた」とも話しています。
達人の想いを具現化していくため、3地域合同で話し合う機会を設定。
地域間のつながりが深まり、「仲間」の意識が生まれた。
まちフェスでの体験を通して自信を得る
まちフェスを通じて、地域住民に様々な変化が見られたと言います。例えば、「達人」として参加した、被災した木を使って楽器(アルプホルン)をつくり演奏しているグループ。それまでは、イベントに呼ばれて演奏するだけだったところ、事前のワークショップなどを経て、まちフェスでは参加者に実際に演奏してもらうなどコミュニケーションを重視することに。すると達人の中で「伝えることって楽しい」と新たな気づきがあり、まちフェス以外でも自分たちで企画してみようという声があがったと言います。
また、プログラム参加者が「次は達人としてプログラムをつくり、挑戦したいことがある」と手を挙げることも少なくないそう。阿部さんは「震災後『何をやってもだめだ』というような雰囲気が漂う中、『やってみたい』という気持ちを大事にしたい」と語ります。
プログラムの一つ「手作り楽器『アルプホルン』と愉快な仲間達」。
参加者とのコミュニケーションに重点を置く試みも。
まちづくりの担い手に
まちフェスが地域の中で果たす役割について、阿部さんは「年代、性別、地域など関係なくつながりができることによって、自分の軸だけで見えていた世界が広がるのでは。お互いに尊重し合い、誰もが自由にチャレンジできる。そんな地域づくりのプロセスになるのではないか」とこれまでの経験を振り返ります。
また、松島さんは今後の展望について「まちフェスが目指すものはシンプル。自分の住みたいまちを自分たちでつくろう、ということに尽きるのでは。自分のまちに人を呼びたいとか、海へ遊びに来る人を増やしたいとか、そういう想いのサポートをこれからも続けたい」と意欲的。人や想いを丁寧につなぎ、まちの元気を取り戻す取り組みをこれからも続けます。
(2014年2月インタビュー実施)