いわき市で被災者を10年支える組織をつくる
<特定非営利活動法人 3.11被災者を支援するいわき連絡協議会>

団体と助成の概要

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 福島県いわき市は、東日本大震災による津波や原発事故の影響により、福島第一原発の周辺地域である双葉郡などからの避難者が多く居住する地域です。その数は2014年2月現在、22,567人(いわき市災害対策本部調べ)。いわき市沿岸部で津波などの影響を受け避難生活を送る世帯もあり、以前多くの住民が避難生活を送っています。

 いわき市内では、被災者支援活動に取り組む市民活動団体が一堂に会する情報交換の場が月1回開催されています。主催するのは、「3.11被災者を支援するいわき連絡協議会(通称『みんぷく』。以下、みんぷく)」。それぞれの団体が協力して被災者を支援していこうと取り組みが進められています。

 

点と点をつなぎ、連携していく組織づくり

  「みんぷく」の理事長である長谷川秀雄さんは、いわき市には避難元地域・避難理由など様々な状況の避難者がおり、支援も広範囲に渡るため、支援団体の横のつながりが必要と考え、2011年6月、初めての「被災者支援会議」を開催。被災者支援に関わる市民活動団体に声をかけ、10以上の団体が参加しました。「それぞれの状況を聞いてみると、本来の業務に加えて被災者支援を行っているため、限界を超え頑張っていた。復興に向け、支援が長期化することを考えると、息切れしてしまうことが目に見えていたので、お互いにカバーし合う必要があるだろうと思った」(長谷川さん)。その後、支援を長く継続していくためには会議だけでは不十分で、被災者支援を中心に担う組織が必要と、2012年6月に「みんぷく」が設立されました。

「県外から支援に入っている団体もいる。いずれ撤退することや、県内の団体であっても本来の業務に戻ることを想定すると、今のうちに支援に特化する組織が必要だと思った」と長谷川さん。「被災者を10年継続して支援できる組織」をテーマに設立されました。現在は40以上の団体が会員として登録。いわき市内で被災者支援に関わる団体の多くが参加しています。

 いわき市では、双葉郡をはじめとした12市町村からの避難者が生活しています。それらの市町村や社会福祉協議会なども会議に参加しており、行政側としても、被災者支援に関わる団体全体の意見を聞くことができると、期待を寄せています。

 

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理事長の長谷川秀雄さん(後列左)とスタッフの皆さん。
「10年継続できる枠組み」を目指し、被災者支援に尽力している。

 

読者の目線に立った情報誌「一歩一報」

 いわき市内には、みんぷくの会員である団体が運営する4つの避難者向け交流サロンがあり、各サロンで様々なイベントが開催されています。以前は、それぞれの団体が個々にイベント情報を発信していましたが、「チラシなどの作成にかける時間と手間を減らして、本来の業務に専念できるように」と、情報を集約し1冊にまとめて広報する冊子「一歩一報」の発行を2013年6月より始めました。

 「一歩一報」は、毎月1回・約1万7000部を発行。自治体の協力を得て避難者に届けられる他、いわき市内の公共施設などにも配布されています。長谷川さんは「特に、気持ちが落ち込んで話す気がしない、外に出る気がしないという人に届けたい。情報を提供することで、表に出るきっかけとなったら」と話します。

各サロンのイベント情報や開催報告に加え、特集ページも。情報を集約し発行することにより、作業負担が減るだけでなく、読者が他のサロンの情報を得て、地域を越えて参加する機会にもつながっています。

 月1回開催される編集会議では、次号の特集ページの内容や写真について議論が進められます。いわき市は他地域からの避難者が多いこともあり、地元住民との意識のすれ違いも起こりがち。地域になじめず、孤独を感じる人も少なくありません。「表紙の写真は、人の表情にこだわっている。受取った人が自分は一人ぼっちじゃないとか、みんな頑張っているんだなとか、少しでも感じてもらえたら」と長谷川さん。避難者の目線に立った広報誌づくりを目指しています。

 

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広報誌「一歩一報」。みんぷくスタッフと各交流サロンスタッフが
月一回編集会議を行い、次号の特集ページを決定する。

 

先を見据え、組織基盤を強化

 「一歩一報」だけでなく、多くの人に幅広く活動を知ってもらうため、ホームページを開設しインターネットでの広報も始めました。いわき市内の復興支援イベントや、ボランティア情報などを掲載。開設してからは、全国から「支援をしたい」という声や視察の相談などが多く寄せられるようになりました。また、日々変化する情報をリアルタイムで発信するため、頻繁にブログの更新も行っており、現在、サイトへのアクセスは月に1万を越えるほどになりました。

 活動の拡大と共に、みんぷくでは会計処理能力の強化も実施。会計担当のスタッフが会計・簿記の講座などに参加したことで専門性が深まり、適切な会計処理と情報公開ができました。「会計を透明化させることで、みんぷくの信頼度が高まったように思う。一過性の支援ではないと感じてもらえることが、被災者との信頼関係づくりには大切なこと」と長谷川さん。さらに「広報と会計基盤の強化に比例して、様々な支援の申し出も増えている」とも話します。こうした動きも、支援を継続するという視点に立ったものと言えます。

「復興の過程が長期化する中でいかに支援を継続できるか、という課題に対して一つのモデルを提示できたのでは」(長谷川さん)。常に先を見据え、支援者同士の横のつながりを深めながら、息の長い支援を続けていきます。

 

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各交流サロンでは、料理教室や様々なイベントが行われている。
スタッフが取材に赴き、一歩一報で開催報告を行うことも。

 

(2014年3月インタビュー実施)