東日本大震災と原発事故により、複雑な状況と多くの課題を抱えることとなった福島県。震災後の2011年6月設立された「Link with ふくしま」は、地域全体で復興を進めるには、行政・企業・NPO・地域住民など、それぞれが協働する動きが必要と考え、プロジェクト「ふくしまフューチャーセンター」を立ち上げ。様々な立場の人が集まり、福島が抱える課題を共有する対話の場「ふくしまフューチャーセッション」を福島県と東京都で開催し、復興に向けた多様なつながりやアクションを生み出しました。
ふるさとの子どもの状況を変えたい
Link with ふくしま設立当時に代表を務めた菅家元志(かんけもとし)さんは、福島県郡山市出身の20代。東京で大学に通いながら企業でインターンをしていましたが、東日本大震災を機に高校時代の友人などに声をかけ「福島のために」と立ち上がりました。
2011年8月からは、福島県内外に住む多様な団体や個人に声をかけ、福島県の課題を可視化し、解決のためにどのようなアクションが必要かなどを話し合う場づくりを始めました。2012年からは「子ども」にテーマを絞り込むことに。「同郷の後輩である福島県の子どもたちが、外遊びや自然に触れることを制限されている姿を見て、自分の子ども時代と異なる環境に置かれていることがショックだった。子どもたちが直面する課題に対して、福島県内外の人たちと考えていくことが必要だと思った」と菅家さん。
そこで、福島県の未来を見据えた課題解決のためのプロジェクト「ふくしまフューチャーセンター」をスタート。「フューチャーセンター」とは欧州から生まれたもので、行政・企業・市民など属性を越え、あらゆる立場の視点を盛り込み社会をより良い方向へ変えて行こうとする対話の場。震災後の福島が抱える課題についても、福島県内だけでなく日本全国の多様な立場の人が対話しながら解決していきたいと、フューチャーセンターの手法を取り入れることにしました。
フューチャーセッションでは、福島に対する様々な課題が挙がった。
多様な立場の参加者からの意見が活発に交わされる。
対話から具体的な解決策を見出す
対話の場「フューチャーセッション」は、2012年に福島と東京で計5回を実施。それぞれ20名程度が参加し様々な意見が交わされました。菅家さんは「話し合いだけでなく、福島の復興を支える、具体的な次の一歩にどうつなげられるかを意識した」と、場づくりのこだわりを語ります。
各回には、福島県で変化を起こそうとする「テーマオーナー」を招きました。テーマオーナーは自分の活動の紹介や抱える課題を共有し、参加者がそれに対して考えやアイデアを出し合います。例えば2012年6月に実施した、未就学児向けの移動保育を行っている団体の代表がテーマオーナーになった回では、他団体との関係性や人材不足について課題を共有しました。すると参加者から、子どもを放射線の影響の少ない場所に移動させて保育を行う際、それまでは代表自らバスを運転していたところ、バスを他団体と共同で運用できないかとの意見が出ました。その案を取り入れ、地元バス会社との連携が進み、人員とコストの削減につながった例もありました。
設立時、代表を務めた菅家元志さん。
「福島の子どもに元気になってもらいたい」と、課題解決のため奔走する。
福島と東京、それぞれの思いをつなぐ
2012年12月には、それまでの集大成となるフューチャーセッションが、福島と東京で同時開催。「みんなで考える“ふくしまフューチャーセンター”のミライ」と題し、それまでのセッションを振り返りながら、フューチャーセンターへの理解を深めることと、未来に向けた動きを考える場となりました。各会場の様子や話し合いで出た意見は、テレビ会議システムを通じてリアルタイムで中継する試みも。福島の状況や課題を県外に発信したいという福島の参加者と、福島の今を知りたい、支援をしたいという東京での参加者との双方を結ぶことにも成功しました。
参加者からは「次への一歩となるアイデアとつながりを得られた」「それぞれに福島に対して課題を感じていることが分かった」「自分の世界観を広げることができた」などの声があり、これまでの動きを総括し、これからの展開を構築するきっかけとなりました。
2012年12月に行われたフューチャーセッションでは、
テレビ会議システムを用い、福島と東京双方の声を届けた。
復興へ向け、次のステップへ
その他にも、ふくしまフューチャーセンターから、復興に向けた様々な動きが生まれました。その一つとして、在京メンバーの一人が「福島県のために何かしたい」という思いを持った人が集まる、シェアハウス「fucco(復興)ポート」を東京・世田谷区にオープンしました。共有スペースを活用し交流会やワークショップが開かれ、福島県を軸にしたつながりが広がっています。
また、菅家さんは、ふくしまフューチャーセンターから生まれた課題と解決策のアイデアを生かし、幼児教育サービスを提供する会社を立ち上げ、福島県内の子ども支援に引き続き取り組んでいます。
2013年は、中小企業支援をテーマにしたワークショップも開かれるなど、ふくしまフューチャーセンターから生まれた活動がさらに広がりを見せています。ふくしまフューチャーセンターは福島県に想いを持つ多様な人が集まる場となり、それぞれが次のステップへと着実に進んでいます。
(2014年1月インタビュー実施)