「子育てと仕事の両立」を社会全体でサポートする仕組みづくり
<特定非営利活動法人 まごころサービス福島センター>

団体と助成の概要

 

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 ひとり親家庭や子育てと仕事の両立を目指す親にとって、大きな障壁となっているのが子どもの病気・急な残業など緊急時に対応する公的サービスの不足です。例えば病児を預かる保育所は少なく、そのために欠勤が続き、会社を辞めざるを得ないケースも少なくありません。このような現状を打開しようと、福島県で多角的な福祉事業を行う「特定非営利活動法人まごころサービス福島センター」は2006年12月、「こども緊急サポートネットワークふくしま(以下、「緊サポ」)」を発足。子育て支援を行う15の団体と連携し、病児保育・保育所への送迎・宿泊預かりなど多様なサービスが県内全域で受けられる仕組みづくりに取り組んでいます。

 震災後は生活再建のため再就職を希望する親も少なくないなど、「緊サポ」のニーズが一層高まったことから、こども☆はぐくみファンドの助成金を活用し、課題だった組織基盤の強化に注力しています。

 

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事務局長で本部コーディネーターも務める佐藤由紀子さん(中央)、
総務・広報担当の河野知義さん(左)、スタッフ会員・小池京子さん(右)

 

行政がカバーしきれない多様なニーズに応える

 「緊サポ」の前身は同団体が厚生労働省の委託を受け4年間実施した子育て支援事業で、「応援してほしい人(利用会員)と応援したい人(スタッフ会員)を組織化し、双方をつなげるコーディネート業務」「そして同趣旨の活動をする団体とのネットワークづくり」が活動の二本柱です。2010年以降は自主事業として継続し、経営母体の異なる県内15支部(NPOや保育所)を取りまとめる本部機能を担っています。「緊サポ」の特長は、提供するサービスが多岐に渡ること、会員登録すれば支部のあるどの地域でも必要なサービスを受けられることです。事務局長で、コーディネーター役も担う佐藤由紀子さんによると、「『子どもが急に熱を出したから、出勤前までに自宅に来て病院に連れて行ってほしい』『保育所に迎えに行って自宅で夕食を食べさせてほしい』といった前日・当日の依頼にも可能な限り応じます」。また出張中の宿泊を伴う預かり、障がいを持つ子どもの一時預かりや送迎、県外から里帰り出産する妊産婦のサポートなど、「行政のサービスではカバーしきれない子育て世帯の多種多様なニーズ」に対応しています。

 

「『緊サポ』があるから仕事を続けられた」

 現在、登録会員は1,200人を超え、活動件数は年間7,000件以上。活動の要となっているのが、「24時間体制で電話やメールでのSOSに応じる」佐藤さんはじめ、各支部のコーディネーターです。「夜間や早朝に依頼の電話がかかることはしょっちゅう。早朝、「すぐに来てほしい」と病児保育を依頼され、スタッフ会員さんを拝み倒して引き受けてもらうこともあります。『これを断ると佐藤さんが困っちゃうんだよね』と言って引き受けて下さる方がいるのはとても有難い」(佐藤さん)。スタッフ会員と顔の見える関係を作っていくことも、コーディネーターには必須だといいます。

 一方、利用会員の多くは「残業が多い」「シフト制で夜勤がある」など仕事上の差し迫った事情を抱えており、「『緊サポ』がなければ仕事を続けられなかった」「子どもをお風呂に入れてくれたり夕食を作ってくれたり、わが子のように育ててもらって本当に感謝している」という声が届くこともしばしば。コーディネーターやスタッフ会員の励みになっています。

 

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活動を周知するため、他団体が主催するイベントにも参加。
ブースを設けて事業説明を行い、子ども向けの遊びの講座も開催した。

 

コーディネート業務の能率化 

 「緊サポ」本部は長い間、佐藤さんと総務・広報を担当する河野知義さんの2人体制で運営してきましたが、ニーズの増加に対応するためには人材の確保が急務でした。そこで2013年には助成金を活用し、コーディネーター候補のスタッフ1名を雇用。組織基盤を強化するための活動も着々と進められています。

 現在、特に力を入れているのが「会員情報のデータベース化」です。「コーディネートを行う際には、利用会員・スタッフ会員双方の事情を把握しておく必要があります。これまでは支部ごとに1人のコーディネーターが担うのが通例でしたが、細かな要望を可視化することで他のスタッフと情報が共有でき、業務が分担できます」と佐藤さん。利用会員に関しては子どものアレルギーの有無・スタッフとの相性・家庭の事情など、スタッフ会員については活動できる曜日/時間帯・保育士や看護師など資格の有無といった情報を整理・集積。まずは本部がモデル事業的に行い、いずれは支部でも「パソコンとネット環境さえあれば、自宅でもコーディネート業務が行える体制」を目指しています。

 

活動の広域化を目指し、新たな担い手を発掘

 利用増加に伴うスタッフ会員の増強を図り、養成研修会を年2回開催(各4日間、25時間の講座)。毎回30~50名が参加し、会員として活躍する人材も生まれています。「皆さん、社会貢献の意欲を持った方たち。沿岸部から避難し、つらい思いをしながらこの活動に生きがいを見出してくださった方も」(佐藤さん)。

 研修会の狙いは会員増にとどまらず、「地域の人に『緊サポ』の活動を知ってもらうきっかけづくり。そして支部がない地域に支部を作るためキーパーソン的な人材を発掘したい」という意図も。「本部と各支部が連携して新たな支部の立ち上げを支援し、県内のどこでもサービスが提供できるようにしたい。そして組織として力をつけ、行政への提言力も強めたい」と話す佐藤さんと河野さん。「子育てと仕事が両立できる社会の実現」という目標に一歩ずつ近づいています。

 

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年2回実施するスタッフ養成研修会では、
小児看護・栄養と食生活・子どものあそび・保育の心得など、4日間に渡り25時間学ぶ。

 

(2014年1月インタビュー実施)