「学校に居づらさを感じる子ども」を地域ぐるみでサポート
<特定非営利活動法人 ゆう・もあ・ねっと>

団体と助成の概要

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 岩手県紫波町を拠点に、地域を巻き込んだ子育て支援活動を展開する「ゆう・もあ・ねっと」。代表の佐藤富美子さんはスクールアシスタント(子どもや保護者の相談役)でもあり、2001年の立ち上げ以来、「学校に居づらさを感じる子ども」の支援に注力しています。

 震災後は、沿岸部から約90世帯が同町に避難。中には学校やクラスに馴染めず、登校を渋る子どももおり、「いかに孤立を防ぐか」が課題でした。そこで生徒数が町内最多の紫波第一中学校では、「学校生活への不安などで教室に行くことができない子ども」が通う「相談室」で、地域の大人と交流する「ゆうごう学習会」を定期的に開催することに。さらに同中学校の1年生を対象に、様々な職業の人から仕事や生き方についての話を聞く「はなし場事業」にも着手しました。これらの事業を通じて子どもたちに多様な価値観があることを知ってもらい、生きる力を育むと同時に、地域全体で子育てを担う仕組みづくりに取り組んでいます。

 

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同団体が運営する「市民活動支援センター ゆいっとサロン」にて、代表の佐藤富美子さん。
午前中はスクールアシスタントを務める。

 

地域の子どもと大人の「顔が見える」関係を

 いわゆる不登校の小・中学生は全国で11万人以上に上り(文部科学省調べ)、教室に通えず相談室や保健室に「登校」する子どもも少なくありません。紫波第一中も例外ではなく、10名前後が相談室などで自習しています。「決してさぼっているわけではなく、子ども一人ひとりに事情があり、不安や葛藤を抱えています。授業に出られるようになることが理想だけれど、成長の一過程として長い目で見守ることも必要」と佐藤さん。まずは親や学校の先生以外の地域の大人と「顔が見える関係」を作り、「子どもが周囲の大人から受け入れられていると実感できること」が大切だといいます。

 「ゆうごう学習会」は、様々な得意分野を持つ地域の人が相談室を訪問し、「郷土料理づくり」「パステル画」「パソコンでスライドショーづくり」といった多様なテーマで講座を開き、子どもと交流する集い。1~2カ月に1回、授業中の2時間を使って実施しています。

 

「得意」を発揮し、認められることで生き生きと

 学習会への参加は強制ではありませんが、「次は何をするの?」と楽しみにしている子どもが多く、回を重ねるごとにプラスの変化が生まれています。子どもたちの教室では見せたことがないような笑顔や、講師に熱心に質問したりお礼を述べたりする姿を見て「まず、学校の先生が変わりました」と佐藤さん。開催にやや消極的だった先生も意義を理解してくれて協力的になり、初めは固かった学習会の雰囲気も自然と和やかに。

 子どもたちは、「例えば、パソコンが得意な子どもはスライドショーを見事に完成させ、講師から褒められたことがきっかけで目に見えて明るくなった」など、自分の「得意」が発揮でき、認められる場があることで生き生きとしてきました。作ったお菓子を「先生に届けて試食してもらおう」と提案する子どもも。その変化に学校の先生も驚いたといいます。

 

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中学校の体育館で行った「働く人から聞こう!」。
車座でじっくり地域の人から話を聞き、子どもたちが振り返りの発表を行う。

 

子ども自身も「受容力」を高めてほしい

 また「小学校の中には、学校では消極的であっても児童センター(放課後の子どもの遊び場)には顔を出す子どももいる」と気づいた佐藤さんは、「ゆうごう学習会」の小学生版ともいえる「児童センターお楽しみ会」も隔月1回ペースで開催しています。これは小学校低学年を対象に、ブーメラン・竹とんぼづくりといった遊びを地域の達人から教わる交流イベント。「小さい頃から、様々なバックボーンを持つ多世代の子ども・大人と親しむことで、子ども自身も受容力を高めてほしい」という狙いもあります。

 毎回20~30名の子どもが参加し、学校にまだ馴染めずにいる子どもが、地域の大人に見守られリラックスして過ごす姿も見られました。「学校の先生としては『早く授業に出て』と急かしたいところでしょうが、学校と家庭以外に子どもが安心して過ごせる場所をつくり、徐々に新しい環境に馴染めるよう働きかけることも必要ではと思います」(佐藤さん)。

 

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小学生対象「児童センターお楽しみ会」。
この日はバルーンアートの達人からリボンの作り方を教わり、みんなで遊び大盛り上がり。

 

子どもの可能性を広げる「はなし場」事業

 一方、同団体は交流事業で培った人脈を生かし、キャリア教育のサポートにも力を入れています。以前から紫波第一中で子どもの“職場体験”のコーディネートを行ってきましたが、「社会人として働くことの意味や生き方についても学んでほしい」と、「はなし場」事業をスタート。2013年12月には体育館で“働く人から聞こう!”と題した大集会を開き、営業職・警察官・保育士・経営者、紫波町の主産業である農業関係者など24名の社会人を講師に迎えて、仕事のやりがいや職業を選んだいきさつなど詳しく聞きました。

 子どもから寄せられた感想文には「今日学んだたくさんのことを進路選択に生かします」「農業の大切さや、自分の好きなことを仕事にすることの楽しさを学んだ」などしっかりとした考えが語られ、将来について考える良いきっかけになったことが伺えます。

 そして「ゆうごう学習会」や「はなし場」で講師を務めた人からは、「『学校まかせでなく、地域のわれわれが子どもと関わっていくことが大事ですね』という感想が聞かれました。これは私たちが最も期待していたところ」と、佐藤さん。多様な子どもを受け入れ、地域全体で子育てを担うという目標にまた一歩近づけたと、手ごたえを感じています。

 

(2014年1月インタビュー実施)