被災した子どもの心を癒し、生きる力をはぐくむ読書環境づくり
<特定非営利活動法人 うれし野こども図書室>

団体と助成の概要

 

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 東日本大震災で甚大な津波被害を受けた岩手県陸前高田市や大船渡市では、子どもの読書環境も損なわれました。盛岡市を拠点に35年以上、子どもの読書の普及活動を行う「うれし野こども図書室」の理事長・髙橋美知子さんは、「こんな時だからこそ『本』の力で子どもの心を癒したい」と、陸前高田市にトレーラーハウスの子ども図書館を設置するなど、震災直後から支援に奔走。2013年度以降は助成を活用し、被災した学校図書室の整備、子ども時代の読書の大切さや読み聞かせの技術を大人に伝えるための「絵本の読み聞かせ講座」の開催、そして保育園・小学校を訪問して「お話」を届ける活動と、三つの事業に注力しています。

 

高田小学校の学校図書室を整備

 髙橋さんは1977年、盛岡市で初の子どもに特化した図書室「うれし野こども図書室」を開設。絵本の読み聞かせや、物語を暗唱して語り聞かせる「ストーリーテリング」の講師としても活躍してきました。沿岸部の公立図書館や地元の読書ボランティア団体からの依頼で読書に関する講話を行うことも多く、特に陸前高田市とは20年来の付き合いが。その図書館長や団体関係者が震災の犠牲になったこと、そして「町がガレキと化し、読書の機会も遊び場所も奪われた」子どもの現状に衝撃を受け、「子どもたちが本の世界を満喫し、想像力・考える力など『生きる力』が育まれるよう出来る限りのことを」との思いを強くしました。

 津波で1階が浸水した高田小学校には膨大な寄贈書が届きましたが、子どもたちが利用しやすいよう整備されておらず、図書室全体の配架にも手が行き届いていない状況。そこで2013年には本の選定・分類・ラベル貼り・配架といった専門性と人手を要する作業を集中的に実施しました。また子どもが興味を持ちやすくするため紹介文を添える、テーマ展示を行うなどの工夫も。その成果が実り、「本を借りに来る子どもが増え、進んでお手伝いをしてくれる子どもも出てきました」(髙橋さん)。昼休みに行う絵本の読み聞かせには多くの子どもが集まり、「あの本を読んで」とリクエストされることもしばしばです。

 

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理事長の髙橋美知子さん。盛岡市総合福祉センター内「うれし野こども図書室」には
約7,000冊の蔵書があり、多くの子どもが利用。

 

子ども時代の読書の大切さを知ってもらうために

 なぜ子どもに読み聞かせや読書が必要か——髙橋さんいわく「母親がするように、肉声で心を込めて読み聞かせることが、子どもに本の楽しさを知ってもらうきっかけになります。そして読書は子どもの想像力や考える力を養うため、ご飯と同じように大切」。主人公たちと共に本の世界で様々な体験をすることで、例えばいじめられている子ども・いじめている子ども双方の立場に立って考えられるようになる。またつらい状況に置かれた時も自分を客観視し、本を読むことで喜びや示唆が得られるなど「生きる力をはぐくみ、大人になった時の血肉になるのが子ども時代の読書です」。

 生活再建に追われ、子どもに本の読み聞かせをする余裕が持ちにくい——といった家庭も少なくないだけに、「子どもの読書の大切さを伝え、また地域で活動する読書ボランティアを育成したい」という二つの目的から、2013年には大船渡市で「絵本の読み聞かせ講座」(全5回)を開催しました。

 

高田小学校図書室のテーマ展示コーナー。
ある時は「扉」にまつわる多ジャンルの本を選び、扉を開けると本が現れる仕掛けに。
 

 

講座をきっかけに読書ボランティアが活発化

 同講座では座学の後、参加者全員が読み聞かせの実技を行い、髙橋さんが丁寧にアドバイス。最終回には市内の小学校で髙橋さんが行う読み聞かせの現場も見てもらいます。情感のこもった語り口に子どもたちはじっと聞き入り、笑ったり驚いたり。とはいえ、「どんなハプニングが起きるか分からないのが子どもの常。数十人を前に、何があっても動じないで上手に語れるようになるには2年くらいはかかる。私も一生修業だと思っています」(髙橋さん)。

 毎回30~40人いる参加者には読書ボランティアの経験者が多く、互いに切磋琢磨し、交流を深める機会にもなっています。また「仮設住宅に閉じこもりがちだった母親が思い切って参加し、読書ボランティアとして活躍を始める」ケースも。「もっと技術を磨きたい」と意欲的な参加者が多かったため、2014年秋には「発展編」の講座も開催する予定です。

 

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大船渡市の読書ボランティア団体の協賛で行った「絵本の読み聞かせ講座」(全5回)。
熱心な参加者が多く、会場は熱気に包まれた。

 

本の力で自らの殻を破るきっかけを

 さらに陸前高田市と釜石市では6カ所の保育園・小学校にスタッフ数名が出向き、年齢・学年に応じた絵本の読み聞かせやストーリーテリングを行っています。

 「保育園では、初めのうちは騒いだり歩き回ったりする子どももいますが、10分くらいすると目を輝かせ、集中してお話に聞き入っています。本には子どもの『聞く力』をはぐくむ力もあり、特に4、5歳くらいの子どもは短時間で目覚ましく成長するんですよ」と、髙橋さん。小学校でも、「普段落ち着きがない子どもがよくお話を聞いてくれてユニークな感想を述べ、先生がびっくりされることもあります」。

 一方、特に小学校高学年には震災で負った心の痛手が癒えず、家では一生懸命元気に振る舞っているけれど、学校では生気がない子どももいるとか。「時間がかかるかもしれませんが、本の力で子どもが自らの殻を破るきっかけをつくれたらと。これからも必要とされる限り、そして私たちの体力が続く限り被災地での活動を続けたい」と、髙橋さんは笑顔で話します。

 

(2014年4月インタビュー実施)