手づくりの冒険遊び場で高める子どもの遊び力
<気仙沼あそびーばーの会>

団体と助成の概要

 

 

 がれきや校庭に建てられた仮設住宅によって遊び場をなくした子どものために、2011年4月に「特定非営利活動法人 日本冒険遊び場づくり協会」が地域に呼びかけ、気仙沼市本吉町寺谷(てらがい)地区に開設した手づくりの「冒険遊び場」。子どもたちによって「気仙沼あそびーばー」と名付けられ、放課後や休日に利用されています。

 もともと期限付きの遊び場でしたが、子どもが楽しそうに遊び、心の拠り所にしている様子を見た地域の住民が「子どもには遊び場が必要」と延長を要請。住民自身が遊び場をサポートしようと、「気仙沼あそびーばーの会」を2013年4月に設立しました。代表の鈴木美和子さんとプレーリーダーの神林(かんばやし)俊一さんを中心に、保護者や地域の高齢者約15人がボランティティアとして協力しています。

 

 夕暮れまで遊んでいた小学生と保護者、ボランティアの人と一緒に、
たき火を囲む鈴木さん(中央)と神林さん(左から2人目)。

 

休耕地に自然を利用した手づくり遊具

 遊び場づくりに30年以上の実績がある「日本冒険遊び場づくり協会」が、震災で心の傷を負った子どものケアを目的に呼びかけた「冒険遊び場」づくり。「冒険遊び場」とは、自然の中で子どもが自由に遊べる環境を整え、挑戦や冒険、失敗する経験を通して子どもの生きる力を育む遊び場のこと。

 同協会のスタッフであり、あそびーばーを運営する神林さんは、「いくら場づくりの経験があっても、子どもの『遊びたい』という気持ちと、地元の人の『応援したい』という気持ちがなければ運営を継続できない」と、地域の人たちとの思いの共有が重要だといいます。その言葉を受けて代表の鈴木美和子さんは「声をかけられたのは、振興会長をしている夫と二人で必死に避難所の運営をしていた頃。子どもの遊び場に意識がまわらない状態でした。あの時その必要性に気づかないままだったら、あそびーばーはできていなかった」と振り返ります。

 寺谷地区の小・中学校校長の理解と、振興会長の「場所を探すよ」という力強い言葉と協力を得て、遊び場は幼稚園や小・中学校が集中した地区から歩いて5分の休耕地を借り受けて開設。地域の大きな協力があり、何もなかった休耕地に神林さんたちが少しずつ木や竹の遊具をつくり、遊び場ができていきました。

 鈴木さんは「何もないと思っていた場所が180度変わって、竹林、斜面、草地、ザリガニが釣れるため池など、遊びにつながるものがたくさんあるとわかった」と環境を再発見した様子。神林さんは「遊び場づくりのポイントは、狭いところや隠れられるスペースをきれいに整え過ぎずワクワクする環境にすること。そして、どうしたらおもしろくなるか子どもに問いかけながら、大人が手を出しすぎないように心がけている」と話します。

 

園児、小学生、中学生、発達障がいを抱えた子どもなど、
年齢も状況も異なる子どもが秘密基地を一緒につくって遊ぶ。

 

体力のない子がターザンのように

 あそびーばーが開設してから、子どもの変化には目を見張るものがありました。杉の木に下がるターザンロープで宙に舞い、小屋の上からジャンプ、工具を使って秘密基地づくりなど、子どもは大きな笑い声をあげ駆け回るようになりました。

 東京にある大正大学人間学部特命教授の天野秀昭さんは「こちらの子どもは、自然があるから遊んでいると思い込んでいるけれど、実際は東京の子どもより体力がない」と意外な事実を伝え、鈴木さんも「考えてみたら、孫にマッチや工具なども持たせたことがなかった」と、「遊び」を通じて学ぶことから子どもを遠ざけていたことに気が付きました。

 子どもは、秘密基地づくり、釘を地面に刺して遊ぶ昔遊びの「釘刺し」、おたまに水と砂糖を入れてたき火で熱するべっこう飴づくりなど、好きなことを見つけて遊びます。それぞれ得意なものが異なることで、自然とコミュニケーションがとれるようになります。

 週4日開放されるうち平日放課後の利用者は10人前後。週末のイベントでは、多いときに100人にも上ります。利用者は近所の園児や小学生、市内の通所施設に通う子どもたち。通りかかったお年寄りがお茶会をすることも少なくありません。

 

「階段をつくるなんてできっこない」という子どもの目の前で、
丸太と板を使って池につながる階段を斜面につくった。

 

つかず離れず見守るプレーリーダー 

 子どもたちに自然の中で遊ぶ魅力を伝え、一緒に遊びながら環境を整え、遊びをサポートするのが「プレーリーダー」です。その役を担い、子どもから「かんぺー」と呼ばれる神林さんは、印象に残っている子どもについて語ります。「震災で親を亡くしたある小学生の子どもは、震災直後は表情がなく無言で遊んでいましたが、1週間もすると強くつついたり叩いたり暴れまわるようになって、どれだけ我慢していたのかと思わずにはいられませんでした」。それが、あそびーばーで工作に打ち込むうち、次第に落ち着きを取り戻していったと言います。自然の中で楽しく遊ぶのはもちろんですが、遊びに全力を注ぐことで、子ども自身が心の傷を癒していくことも少なくありません。プレーリーダーは、一緒に遊ぶだけでなく、子どもの力を信じ、見守り支えることも大切な役割の一つなのです。

 「最近ある子どもに言われたのです。『夢が一つ増えた。プレーリーダーになることだ』って」と、うれしそうに話す神林さん。遊び場づくりは、種まきの段階から根付く段階にきています。子どもが思いっきり遊べる環境を、これからも地域の方々と大切に育んでいきます。

(2014年1月インタビュー実施)