被災地で不足する保育所運営を通じ、就労や子育て環境づくりを支援
<特定非営利活動法人 和>

団体と助成の概要

 

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 京都市を拠点に介護福祉事業や保育所の運営を行ってきた「ハイビスカス」は、東日本大震災の直後から専門性を生かした支援活動を続け、2013年9月、復興支援事業に特化した団体「和(なごみ)」を設立。京都府内に避難している人の生活や就労をサポートする一方、助成金を活用し、津波被害の甚大だった宮城県石巻市で子育て支援活動を展開しています。

 この石巻での活動の目に見える成果であり、団体の拠点となっているのが2012年5月、渡波(わたのは)地区に開設した認可外保育所「ちるぴよ」。多くの保育所が罹災し、保育サービスが不足している同地区で、働きたい保護者の就労サポートや子育ての息抜きができる希少な場として地域の人に活用されており、「広域災害時に遠隔地のNPOが取り組むべき子育て支援」のモデルケースとしても注目されています。

 

親子サロン活動を通じて築いた地域の人との信頼関係

 団体の母体「ハイビスカス」の主力事業は高齢者や障がいを持つ人へのサービスですが、京都市の保育所不足を緩和するため、2009年に認可外保育所を立ち上げたことが「和」の活動につながりました。理事長の大塚茜さんをはじめ、スタッフに保育士など児童福祉分野の有資格者が多く、保育所の運営ノウハウを蓄積しているのが強み。2011年7月から石巻市渡波地区の避難所で子育て世帯のニーズ調査を行い、「まずは地域の方と信頼関係を築かなくては」と、約1年間、仮設住宅の集会所などで親子向けサロンを開催しました。

 「この時使ったグループ名が『ちるぴよ』です。サロンを始めた頃は『子どもと離れて過ごすことが不安』という方が多かったのですが、時間の経過とともに『家を片付ける間、子どもを預かってほしい』『たまには子どもと離れてリフレッシュしたい』、そして『働きたいから保育施設を探さなくては』という保護者が増えると予想がつきましたし、実際その通りだった」と、大塚さん。ニーズの増加を見計らって場所を確保し、託児事業をスタートしました。

 

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「ちるぴよ」ではゼロ歳児の保育も行っている。
託児依頼数は時期によって差があり、認可保育所の待機児童が増える冬場がピーク。 

 

被災した母親と子どもに寄り添う

 「ちるぴよ」は当初、週4日間の開設で、「病院に行く間1~2時間預かって」といった単発短時間の預かりが主でした。しかし就労を希望する母親が増えるにつれ「土曜日も預かってほしい」という要望が増加し、2013年7月以降は週6回、1日8時間、10人前後の乳幼児を預かることに。利用者からは「通える範囲にある認可保育所は定員オーバーで、一時保育も利用できなかった。『ちるぴよ』のおかげで再就職できた」「家業が再開でき、生活再建のめどがたった」といった声が多く聞かれる他、「子どもが震災時のトラウマで夜泣きや徘徊をするのが悩みだったが、落ち着いた環境で保育してくれるので収まった」というケースも。

 託児スタッフ(3人)は、石巻市周辺に住む保育士などの有資格者。育児相談にも応じており、「生活に大きな困難を抱えている方や、育児放棄が懸念される方も稀にいらっしゃるので」、じっくり話を聞いた上で必要と判断される場合は行政のサービスにつなげています。「スタッフ自身、被災した当事者だからこそ同じ立場の母親たちに親身に寄り添える」と大塚さん。

 開所後しばらくは、石巻に常駐するスタッフを雇用し事業の立ち上げと運営を行いましたが、今は現地スタッフに委ね、本部は京都からマネジメント面のサポートを行っています。

 

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広々した屋内で遊ぶ子どもたち。
少人数の落ち着いた環境が気に入り、あえて認可保育所ではなく「ちるぴよ」を選ぶ人も。

 

地域の子育て支援団体を後方支援

 「遠隔地に本部のある団体だからこそできることがあり、逆にしない方がいいこともある」——その点を見極めつつ活動しているのも「和」の特長といえます。「私たちの役割は、地域の子育て環境が整うまでのつなぎ役であって、地域の活動を邪魔するようなことがあってはならない。『ちるぴよ』の運営もいずれ現地スタッフに任せるか、地域内に建設される保育所に事業を委譲することも考えながら、活動を続けています」。

 ちなみに石巻市の「災害復興住宅供給計画」によると渡波地区には2017年までに390~490戸の復興住宅が建設される予定。「新しく子育て世帯が移転してくる際に、一時預かりをする保育所は重要なインフラの一つだと思います。最近、自分たちで『ちるぴよ』のような事業を立ち上げたいという母親のグループも現れてきたので、ぜひともサポートしたい」と、地域の母親主体の活動へのノウハウ移転にも前向きです。

 

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天気が良い日は外遊びや散歩を楽しむのが日課。
近隣に公園はまだ少ないものの、空き地は多く、子どもたちは活発に活動。

 

広域災害に備える支援の仕組みづくり

 震災後まもない時期から被災地で活動を続けたことで、「取り組むべきもう一つの大きな課題が見えてきた」と言います。「次に震災が起きた時は自分が被災者で、住み慣れた町は壊滅するかもしれないという状況がリアルに想像できた。その時に備えて地域を越えてNPOが連携し、支援体制をつくる必要があると痛感しています」。石巻での活動を通じてつながった団体や被災地支援で実績のある団体と日頃から連絡を密に。また保育士などに呼び掛け子育て支援の人材バンクをつくり、団体間で情報共有するといったプランを練っています。

 「災害時に1日でも早く支援に入れたら、その分母親のストレスや子どもの精神的ダメージが軽減できるはず」と大塚さん。今後も石巻市の子育て環境づくりに尽力すると同時に、広域災害時に備えた全国的な支援体制づくりにも積極的に取り組んでいきます。

 

(2014年1月インタビュー実施)