地域の人たちによる放課後「あそびランド」
みやぎくりはらこどもねっとわーく

団体と助成の概要

 

 「みやぎくりはらこどもねっとわーく」が活動する宮城県栗原市は、10町村が合併して2005年に誕生した県内最大の面積をもつ市です。地区ごとの子ども支援団体のネットワークづくりが始まったのは、2008年に起きた岩手・宮城内陸地震がきっかけでした。地域の子どもたちを支えたいと子ども支援団体の連携が進む中、2011年に東日本大震災が発生。栗原市は最大震度7を観測した上、地震の被害や放射線量の高い地域もあり、外遊びができないところもあります。

 2度の大きな地震により、子どもを自宅で1人にすることや、歩いて30分以上もかかる夕暮れの帰り道に不安を覚える母親が少なくありません。そうした理由から「仕事が終わるまで大型スーパーで子どもを毎日待たせている」という母親の声を聞いた子育て支援団体の会員が中心となって、学年に関係しない子どもたちの居場所づくりを地域の公民館で始めました。保護者や高齢者など、まちの人たちの協力も得ながら、子どもが楽しく過ごせる「あそびランド」を定期的に開いています。

子どもと大人の垣根を越えた居場所

 この日、栗原市にある公民館では「くりはらあそびランドクリスマス会」としてビーズクラフトが行われていました。司会進行の声は、マイクなしで公民館の外にまで響くほどの元気の良さ。声の主は、子どもたちから「しばちゃん」の愛称で呼ばれている同団体理事長の長柴幸江さんです。この日集まっていた子どもは約30人。ビーズでクリスマスツリー型のストラップを作っていた小学4年生くらいの女の子が、長柴さんに声をかけます。「ねえ、しばちゃん、スパンコールが1個足りない」。その声に応える長柴さん。スタッフや地域のボランティアが子どもの間に混ざり、「大丈夫か? あーちゃん」と子どもたちに対してもニックネームで呼んで手伝います。

 活動を始めた当初は、放課後に行き場のない子どもたちのための居場所だと思って活動してきました。その意識が変わったのは、兄弟3人で来ていた一番上の子が言ったひと言から。「うちにいると下の子の面倒を見ないといけないけど、ここに来たら好きなことができる。ボール遊びもできるし、マンガを読んでもいい。初めて自分の好きなようにできる」という声を聞いて、長柴さんは「涙が出ました。空間ではなく、心の拠り所が必要だったんだ、と」。子どもからの打ち明け話も多く、「お母さんには黙ってて」といった約束を交わすこともあります。子どもと大人の垣根は、そこにはありません。「子ども同士のけんかがあると、割って入って仲裁するのではなく、仲直りのきっかけをつくり、子ども自身が関係を再生しやすい関わり方を心がけています」と長柴さん。「塾の先生とも、学校の先生とも違う。1から10まで指導するのではなく、子どもたちが楽しく過ごせる居場所を目指す」というあそびランドでは、スタッフは子どもたちにとって年上の仲間といった存在なのかもしれません。

写真3
お菓子が詰まったクリスマスブーツは、牛乳パックを再利用したもの。
スタッフは、あるものを活用して楽しむ工夫の名人。

 

工夫して考えて「本当の遊び」に

 栗原市の志波姫(しわひめ)地区と若柳地区の2カ所でそれぞれ週3回開いているあそびランドは、各小学校から徒歩5分や7分で行ける公民館が会場です。子どもたちは放課後に来ると、まず宿題に取りかかります。宿題が終わったらおやつの時間。その後はホールで球技など、思い思いに過ごします。日によっては和室で工作を行う場合もあります。2014年度からは1回の参加費150円と月500円の教材費を集金しています。

 活動の内容は、子どもたちに相談しながら決めていきますが、基本は遊び道具に頼るのではなく、ペットボトルのキャップや石ころ、段ボールといったものを工夫して遊びにします。「お金をかけなくても遊べる、本当の遊びに触れられるように」と長柴さんをはじめスタッフは、子どもたち一人ひとりの工夫や発見を大切にしています。

 

子どもには「いやんべざっくり」接する

 一人ひとり家庭環境も異なれば、抱えているものも異なります。その日によって子どもの様子も表情も違います。あそびランドでの決めごとは、「乱暴はしない」こと。それを守れば、疲れているときは横になってもいいし、しゃべりたくないときは図書室に行ってもいい。その時々の子どもたちの状況を受けとめます。「元気のないときには元気を足して、元気がありすぎるときには引いて。『いやんべざっくり』と付き合うようにしているんです」と長柴さん。「いやんべ」とは「いい塩梅」を表す方言。干渉しすぎず、放りっぱなしにせず、ほどよい加減で子どもたちを見守っています。「私たちは、子どもに楽しんでもらうことが目的の芸人みたいなもの。大きなことはできなくても、自分たちにできることで、笑顔を生んでいく」と話す長柴さんたちスタッフは、子どもたちの仲間であること、保護者の居場所にもなっていくことを目指しており、主ににとっては打ち解けやすく本音をこぼせる存在でもあります。

「こうしてもらいたいという保護者の意見や知恵を貸していただければと思っているんです」と長柴さん。知恵を生かし、自分たちにできることで実績を積み、子育て支援の現状や課題を地域全体で考えられるように。地域の子育て環境をさらに充実させたいと願う地域の人たちによる熱い想いが、日々の地道な活動につながっています。

 

(2013年12月インタビュー実施)