アートを活用した子どもの居場所づくり、仲間づくり
<特定非営利活動法人にじいろクレヨン>

団体と助成の概要

「アートを活かしたプログラム」の様子

 被災した子どもは大きなストレスを抱えながら発散する場がなく、大人以上に我慢を強いられている——石巻在住の画家でありお絵かき教室を主宰していた柴田さんは、自らも被災して避難所に身を寄せた際、子どもたちの心のケアが必要と痛感し、震災直後の3月22日に団体(現・NPO法人にじいろクレヨン)を立ち上げました。

 当初は避難所の子どもたちを対象に、被災をまぬがれた家庭から募った紙やクレヨン、支援物資の玩具など“手に入るもの”を利用し、ストレス発散のためのレクリエーションを提供。2011年夏以降は仮設住宅に活動の場を移して子ども支援を続けてきました。現在は石巻市を中心に宮城県内8ヵ所の仮設住宅で「アートを活かしたプログラム」を実施。子どもが安心して遊べる居場所づくりに注力しています。

 

子どもが子どもらしく遊べる環境を

 「アートを活かしたプログラム」は、各仮設住宅の集会所や談話室で週1回(各回2~3時間程度)行っている訪問型のレクリエーション活動です。粘土遊び、折り紙、木工、布を使った衣装づくりなど、柴田代表のノウハウを活かした多彩な内容ですが、「アートはあくまで手段。目的は子どもの居場所づくりですから、毎回テーマは用意するけれど、子どもの希望に応じて自由に遊んでもらっています」と、柴田さん。

 たとえば“紙ヒコーキを飛ばそう”が鬼ごっこに変わることもあれば、子どもが自主的に始めたお店屋さんごっこがポスター制作に発展することも。また仮設の敷地内には自由に走り回れる場所がないため、公園や校庭での外遊びも頻繁に行っています。時に喧嘩も起こりますが、「それも含めて子どもが子どもらしく過ごせるよう」適度な距離を持って見守っています。

仮設住宅の集会所で、この日は布を使った衣装づくり。スカートや帽子を作り、最後はファッションショーで盛り上がる。

仮設住宅の集会所で、この日は布を使った衣装づくり。
スカートや帽子を作り、最後はファッションショーで盛り上がる。

 

ストレスを解放し、仲間づくりができる場に

 今でこそ活き活きとした表情で遊ぶ子どもたちですが、当初はスタッフに暴言を吐いたり、過度に甘えることもしばしば。「フィンガーペイント(指に絵の具をつけて描く遊び)をすれば画用紙が真っ黒になるまで手形を押し続ける」など、心の荒れや鬱屈が作品にもよく表れていたといいます。

 震災体験に加え、仮設住宅への移転にともなう転校、“元の学校にスクールバスで通学しているため、放課後、同級生と遊べない”など、生活環境や友達関係の激変が子どもにあたえたダメージは計り知れません。また親たちも生活再建に追われ、子どものメンタル面まで手が回らないのが実情です。保護者に実施したアンケートでは「子どもと遊んでやれず、子どもも遊んでくれとも言わず一人でゲームばかりしていたが、にじいろクレヨンが来てくれるようになってから外遊びが増えた」、「友だちが増えた」といった回答が大多数。子どもにとって心を解放し、仲間づくりができる貴重な場であることがうかがえます。

スタッフとともに「ランプシェード作り」を楽しむ子どもたち。バーナーで焦げ目をつけた木材はシェードの底部分に使う。

スタッフとともに「ランプシェード作り」を楽しむ子どもたち。
バーナーで焦げ目をつけた木材はシェードの底部分に使う。

 

被災地のすべての子どもが支援対象

  元々、仮設内には子どもが遊べるスペースがなく、集会所も大人が占有しているのが通例でした。その現状を“子どもの豊かな心の育み”という視点から変えた点、そして固定したスタッフが定期的に訪問し、子どもとの間に強い信頼関係を築いてきたことも特筆すべきでしょう。またプログラム参加者を仮設住宅の子どもに限定せず、「地域のすべての子どもの居場所づくり、交流の場づくり」に取り組んでいるのも同団体の大きな特長です。

「市街地では公園をつぶして仮設を建てたケースが多く、元から住んでいた子どもも遊び場が制限されている。また被災して新しく家を建てて越してきた世帯の子どもなど、様々なバックボーンを持つ子が混在しています。知らない子ども同士が仲良くなれる交流の場がもっともっと必要だと思います」(柴田さん)。

 

地域全体で子どもを見守る仕組みづくり 

 活動を続ける中で、柴田さんは「子どもがのびのび育つには地域のコミュニティ再生が不可欠」と改めて気づいたといいます。「大人たちの交流がないと、家の前で遊んでいる見知らぬ子どもは“異物”でしかない。地域全体で子どもを見守る状況をつくっていかなくては」。そこで2011年秋から、石巻市の3つの仮設住宅で大人を対象とする“お茶会”を開催(月2~3回)。絵手紙や手芸を楽しみながら居住者が交流を深め、子どもや孫の顔が見える関係性づくりを目指しています。

「手探りで活動してきましたが、今後、復興住宅への移転が始まる時、子どもをどう支援すべきかが見えてきた」と柴田さん。遊び場の確保、(集会所でシルバー世代が昔の遊びを教えるなど)子どもを軸としたコミュニティ形成、さらに地域の子どもたちの集いの場・プレーパークづくりも目標だといいます。

石巻の事務所にて、代表の柴田滋紀さん。「アートを活かしたプログラム」を率先して行いつつ、お絵かき教室も開催している。

石巻の事務所にて、代表の柴田滋紀さん。
「アートを活かしたプログラム」を率先して行いつつ、お絵かき教室も開催している。

 

「被災地の子どもが心豊かに育つ環境を、地域の大人たちとともに創造する」——そんな将来に向けて、組織としての基盤強化にも力を入れています。ボランティアスタッフ向けに行っている研修制度もその一つで、現場リーダーとして活躍する多くの人材を育成してきました。さらに「お絵かき教室」(月謝制)の参加者増を図り、展示会や体験教室などのイベントを実施。被災地の子どもを長期的に支援するため、様々な角度から活動の基盤づくりに取り組み、成果を上げています。

(2013年9月 取材実施)