演劇やダンスで乳幼児の心と体をのびのびと
<おはようシアター>

団体と助成の概要

 

 震災後の避難所の生活に始まり、その後の仮設住宅といった住環境の中で、子どもは、大人たちからおとなしくするように言われる状況が続いています。震災後、仙台市を活動拠点とする演劇やダンスなどの芸術に関わるメンバーが、子どもが子どもらしく自由に過ごせる時間と場所を届けようと、「おはようシアター」を2011年6月に結成。まだ言葉で表現することのできない乳幼児が参加できる独自の演劇プログラムで、子どもの気持ちを素直に表現できる場づくりに取り組みます。はつらつとはしゃぐ子どもを見て親自身の安心感につながるという、子どもと親どちらにも前向きな感情を生む活動を行っています。

 

思いきり自由に過ごせる時間を届けたい

 「子ども向けに日中に講演する劇団なので『おはようシアター』なんです」と団体名を説明する代表の川熊美貴さん。

 結成の動機について、副代表の西海石(さいかいし)みかささんは「安心して生活できる本来の生活環境があれば、子どもが騒ぐのを親が必要以上に気にすることはないのに、避難所や仮設住宅の生活では、大人が『シー』と口に指を当てる。にぎやかな子どもがいても当たり前なのに、親が『うちの子は騒々しいから』と気にしてしまう。少しでも子どもらしく思いきり遊べる時間と、親が安心できる機会を届けたいと思った」と話します。

 そこから、劇場での鑑賞とは異なる、子ども自身が参加できる演劇プログラムづくりが始まりました。

 

川熊さん(右から2人目)や西海石さん(右から3人目)が踊り出すと、
子どもも近づいて一緒に踊り出すこともしばしば。

 

児童教育に携わった舞台人による巡回公演

  川熊さんは演劇の俳優であり、元児童館職員。西海石さんは、国内外の障がい児教育に詳しく、障がい者支援施設でダンスのワークショップなどを行う専門家。メンバーには現役の児童館職員もおり、子ども支援と演劇のどちらの専門性も備えているのが特徴です。

 専門分野の立場から気がついたのは、言葉が基本となる芝居中心の児童向け演劇プログラムはあっても、乳幼児向けが少ないこと。そこで、新たに4つの独自プログラムを作成することに。

 完成したのが、0~2歳の乳幼児と保護者向けに、体でコミュニケーションをとる「012シアター」。0~6歳向けの、芝居に参加できる「おもちゃ箱」。2~6歳向けの絵本の物語をアレンジした「三匹のかわいいオオカミ」。2歳~小学校低学年向けロールプレーイングゲーム「宝物を探せ!」といった、子どもの発達段階に合わせて参加できるプログラムです。

 その公演は、子どもとの親近感が増すように、同じ施設で複数回行うように配慮されています。「初めて公演するところと、何度か公演したところは、子どももキャラクターを覚えていて、声をかけてくれるなど、反応が全然違います」と川熊さん。

 回数を重ねるごとに、母親の口コミで参加者が増えることも多く、お気に入りのキャラクターを追いかけて異なる開催地に参加した親子もいるほどです。

 

 公演が終了すると、一列に並んだメンバーと子どもたちがハイタッチ。
公演の前と後では、子どもの表情が違う。

 

公演場所や年齢に合わせた芝居や手遊び

 そこまで親子を引きつけるのは、「同じ演目でも、その場に合わせてアドリブを入れ、毎回全く違うものになるから」と説明する川熊さん。公演が決まれば、その地域の状況、会場の広さ、参加者の年齢や人数などに合わせて、プログラムの順序や内容を最適なものにアレンジしています。当日、舞台で演じながらも、子どもの反応を見ながらアドリブを加え、より盛り上がるように変えていきます。

 「最初はぽかんと見ていた子どもが、どんどん前のめりになって見るようになり、だんだん顔がゆるんで表情が動き出すんですよ。舞台の装飾が月から太陽に変わったら、子どものほうから『朝だよ、寝坊しちゃだめだよ』と教えてくれることもありました。私たちが先へ先へ劇を進めるのではなく、ゆっくり演じることで子どもが声を出し、自主性を育むことにつながるんです。ある時には、子どもたち全員が音楽に合わせて一緒に踊り始めたこともありました」と西海石さんは子どもとの触れ合いを大切に、楽しみながら演じています。

 

元児童館職員だった川熊さん。
プログラム中はもちろん、舞台をおりてからも、子どもや保護者と自然に触れ合う。

 

子どもの自己表現を大人が安心して見守れるように

  「お母さんたちは、子どもがのびのびと遊ぶ姿を見て、『子どもはみんな体を動かしはしゃぐのが好きで、自分の子どもだけが特別ではない』と安心するんですよね」と西海石さんはうれしそうに振り返ります。

 公演後に毎回行う「お茶っこ会」も、保護者や先生の思いを聞く貴重な場になっています。繰り返し話す機会があることで信頼感が生まれ、沿岸部での公演の際には被災時の話を明かした母親も。

 先生からは「子どもも一緒に劇に参加することで、自主性が引き出されるんですね」「普段は、ケガや失敗をしないようにと先回りしてしまいがちだけど、たくましく育つ芽を摘んでしまうことがあると分かりました」という声もあり、子どもとの関わり方のヒントを得る機会にもつながっています。

 子どもが自由に表現する機会をつくり、大人たちも、素直な子どもたちの表現を安心して見守れる環境づくりのため、これからもたくさんの場所に公演を届けていきたいと考えています。

 

(2014年2月インタビュー実施)