子どもがつくる仮想都市「Piccoliせんだい」の運営をサポート
<ピコせんサポーター>

団体と助成の概要

 

 子どもが主体となって仮想都市をつくり、お店を運営したり、働いて得たお金で買い物をしたりする中で社会の仕組みや様々な職業について学ぶ——ドイツの「ミニミュンヘン」が発祥の「子どもによる子どものためのまちづくり」は、日本でも全国的に広がっている活動です。宮城県仙台市宮城野区で同様の取り組みを行っているのが、2児の母である齋藤まゆみさんが2010年9月に立ちあげた「ピコせんサポーター」。2011年から毎年1回、こどもがつくるまち「Piccoli (ピッコリ)せんだい」を開催しています。

 まちづくりの企画段階から子どもが中心となって準備を進めるのが特長で、「地域の人や多様な子どもと関わり、コミュニケーション力や自分たちで問題を解決する力を育んでほしい」という狙いも。2013年には夏休み中の3日間に渡り大型公共ホールで開催し、約380人の子どもが参加して好評を博しました。

 

多くの人と関わり、主体性を発揮できる場を

  代表の齋藤さんいわく、「核家族化が進み、子どもが多世代の人と関わる機会が減っていることがずっと気になっていました。また子どもの数が少ないだけに親はつい手をかけすぎてしまう。子どもが主体性を発揮でき、失敗してもそれが学びになる場があればと思っていた時、新聞で『子どものまちづくり』の取り組みを知り、これだ! と思ったんです」。

 2010年、仙台市が公募した宮城野区文化センター開館記念事業の企画に齋藤さんのプランが採択されたのを機に団体を設立し、事業をスタート。地域の小・中学生への参加呼びかけや大学生サポーターの募集に奔走し、2011年度のプレイベントを経て、翌年度、同センターで2日間「Piccoliせんだい」を開催しました。参加を希望する子どもが募集の倍近くに上ったことから、2013年度には定員枠を拡大。「現実の社会とリンクしていることを子どもに実感してもらうため」開催日も増やすなど、より本格的な「こどものまちづくり」を目指しています。

 

代表の齋藤まゆみさん(右)。大学生サポーターの志羽久文香さん(左)、
毎年「Piccoliせんだい」に参加している娘さんと共に。

 

子ども実行委員や店長が5カ月がかりで開催準備

 「Piccoliせんだい」には飲食店・雑貨店など様々なお店の他、病院・消防署・ラジオ局といった公共施設やゲームセンターもあります。まちの景観や店舗数など全体像を決めるのは「ピコせんキッズ(以下、キッズ)」と呼ばれる子どもたち(10~30人を公募)。まちの土台を創る実行委員として、5カ月に渡り月2回、「こども会議」を開き、まちづくりの準備を進めます。

 大学生サポーターの志羽久文香(しはくあやか)さんによると、「給料は1時間働いて800ピコ(ピコが貨幣単位)、税率は10%といったこともキッズが決めたんです。私たちサポーターは会議の進行を手伝いますが、できるだけ口を挟まず、時間がかかっても子ども自身の力で意見を調整できるよう努めています」。

 そしてまちの概要が決まったところで「こども店長」(約50人)を公募。飲食店の店長は看板やメニューづくり・必要な材料のリストアップなどの準備をし、当日は会場内に設置された「市場」で材料を仕入れ、調理に取りかかるという段取りです。さらに「消防署を受け持つ子どもは防災関係の仕事の方から指導を受ける」など、仕事について学んだ上で本番に臨みます。

 

「こども会議」で、まちづくりについて意見を出し合う子どもたち。
紙幣のデザイン・税率・どんなお店を出すかも子どもが決める。

 

遊びだからこそ真剣に取り組む

 開催日は、「子どもたちの熱気がすごくて、大人が圧倒されそうなほど」だとか。当日参加する子どもはまず住民登録をし、次にハローワークで仕事を探します。そこで「花屋さんで働きたいです」「今は空きがないので別のお店はどうですか?」といったやり取りが。「お店で働く子どもは店長から税金を差し引いた賃金を受け取り、税金は公共施設で働く子どもの賃金に回る」など社会の仕組みそのものが体験でき、子どもたちが仕事に向かう姿勢も真剣そのもの。

 「お客さんが少ないとメニューや値段を変えたりラジオ局にお店の宣伝してもらったり、子どもたちは知恵を出し合って工夫します。遊びだからこそ夢中になり、真剣に取り組むんですね。そして初日に失敗したことは翌日修正し、少しずつ成功体験を積み上げていく。その過程がとても大事だと思います」(齋藤さん)。

 

「消防署」の子どもは防災訓練を実施。
「けが人を運ぶ時は、物干し竿と毛布で作った担架が便利」と、プロから学んだ方法を披露。

 

人の役に立つ喜びを実感

 年齢も通う学校も違う子どもが集まり「まちづくり」にチャレンジをするだけに、時にはトラブルも起こりますが、「店長と店員の子どもがもめた時は別の子どもが仲裁に入ってくれました。ほとんどの場合、子ども同士で話し合って解決しています」(志羽久さん)。

 参加した子どもからは「まちのことや自分の将来のことも考えられてとても勉強になった」、「友だちがたくさんできた」など社会の仕組みの学びやコミュニケーションに関わる感想の他、「お客さんに『美味しい』と言ってもらえた」(飲食店の店長)、「お掃除をして皆に喜んでもらえてうれしかった」(清掃会社)といった仕事の喜びに関する感想も多数寄せられています。

 「子どもが本来持っている様々な力を育むと同時に、人の役に立つ喜びを実感してもらうことが活動の一番の目的です。子どもたちからそのような言葉が聞けたことはなによりうれしかった」と齋藤さん。将来的には「参加した子どもがサポーターとして戻って来てくれて、より深い内容のまちづくりができたら」と、実現に向けて、活動の長期的な継続を目指しています。

 

(2014年4月インタビュー実施)