被災地で伝える、子ども自身が安心・自信・自由を得る方法
< CAPみやぎ>

団体と助成の概要

 

 震災後、長期化する避難生活のストレスや経済的な困窮などにより、子どもへの虐待のリスクは高まっていると言われています。宮城県内の児童相談所に寄せられた児童虐待相談件数は、757件(平成24年度、厚生労働省調べ)。震災のあった前年度から約10%増加しています。

 1996年から県内で、子どもの自尊心を高め、自分も他者も大切にすることを伝える活動を行っている「CAPみやぎ(キャップみやぎ)」。「CAP」とはChild Assault Prevention(子どもへの暴力防止)の頭文字で、子どもたちがいじめ、痴漢、誘拐、虐待、性暴力といった様々な暴力から自分を守るためのプログラムのこと。学校や児童養護施設などで、子どもの発達段階に合わせた寸劇や人形劇などのプログラムを通じて、子ども自身の危険回避能力を引き出しています。

 

環境変化の大きい沿岸部に注力

 震災後、活動エリアを県内全域から被害の大きかった沿岸部中心へと移行。そのきっかけについて、CAPみやぎの代表、佐々礼子さんは「沿岸部の学校、主に小学校で、子どもたちの心の揺れが出ているという先生方の声をよく聞きました。実際に、子どもの言動が荒かったり、否定的であったり、『でもね、私だってね』という言葉など、周りに受け入れてもらえていないのではと感じることが多かった」と振り返ります。

 震災による生活環境の変化などにより我慢を強いられ、自分の感情を表に出すことができない子どもや、避難の長期化による疲弊、家計や住居といった将来への不安から生じる親のDVを見た子ども、いじめの加害者になっている子どもにも接してきました。

 「加害者を作らない、被害者を支援する」のがCAPのプログラム。「~してはいけません」という危険防止教育ではなく「~することができるよ」と行動の選択肢を広げ、子どもたちが本来もっている「生きる力」を引き出していきます。 

 

佐々さん(右端)を中心に、子どもに「安心、自信、自由」を伝えるスタッフ。
メンバーには、男性の若手スタッフもいる。

 

子どもの気づきを促すロールプレイ

 プログラムで最初に行うのが、子どもたちに「安心」して「自信」を持ち、「自由」に生きる3つの権利があることの説明。そして、暴力をうけそうになったときには、「NO(いやと言う)」「GO(逃げる)」「TELL(誰かに話す)」という3つの方法を使って自分を守ることを伝えます。さらに、身を守る具体的な方法として、「ウォー!」と地面をはうような大声を出して威嚇して逃げる訓練も行います。

 被災した沿岸部の宮城県石巻市、多賀城市、仙台市、松島町の学校や児童養護施設で開催したワークショップでは、発達段階に応じて、寸劇、歌、人形劇、話し合いなどを盛り込み、暴力防止の具体的な対処法を実践。ロールプレイ(役割劇)では、いじめ、誘拐、性暴力、先生に相談するなどの場面を設定。小学校低学年では絵本を取り上げられる場面、嫌な触られ方をした場面などを見せ、自分で考える力を養い、想いを言葉にし、登場人物の1人として役割を演じることで、身を守る方法へと結びつけていきます。

 ロールプレイの後は、子どもの相談にのるトークタイムに充てています。震災後は子どもの気持ちにより丁寧に向き合うため、時間を多めにとり「不審者に会ったらどうしよう」「逃げて袋小路に入ったらどうしよう」という子どもの不安に、具体的な方法を伝えています。

 

いじめのロールプレイに、子どもも参加。
先生に相談する役割を演じ、疑似体験することで、自分を守る方法を身に着けていく。

 

大人に気づきを促す講座

 活動は子ども対象にとどまらず、大人向けワークショップも開催しています。一人ひとりの子どもにあった子育てを提案する「スター・ペアレンティング」を石巻市で行った際には、乳幼児を連れた保護者や、孫のいる祖母、保育士など22人が参加しました。

ある保護者からは「子どもがいつも反抗する」という相談がありました。落ち着いて対話をしてみると、その保護者が感じている「いつも」が「忙しいとき」に限られていることなどの気づきが生まれました。自分の気持ちを整理し、考え方の幅を広げられるよう、具体的な方法をアドバイスしています。

 

子どもが自分を守るためにできることを示したポスター。
貼りかえられるように2種類を制作し、ワークショップ実施校に配布した。

 

「自分の身の守り方が分かった!」

 ワークショップ後は、子どもも大人も身体的な危害だけではなく、暴言や無視など心理的な暴力に気づくことが多いといいます。

 「自分は人の権利を踏みつけていた。権利を踏みつけてはいけないと思った」といじめる側であると認識した小学生や、「友達の助け方や、自分の身の守り方が分かった」と対処法を見つけた小学生。「僕たちに権利があると初めて分かった」という中学生も。保護者からは、「子どもの欠点と思えるところを前向きに考えられるようになった」と、活動を通じて子どもや大人にも変化が感じられています。

 沿岸部の中学校をワークショップで訪れた際、「『安心』『自信』『自由』ですよね。特別な叫び声を上げる訓練も、小学生のとき体験しています」という教員に出会った佐々さん。「1回しか会っていなくても、ずっと記憶に残っていたのがうれしくて」と成果を実感しました。自分と周りの人を大切にする意識を子どものうちから理解し、様々な暴力の加害者・被害者を未然に防ぐことができるよう、活動を続けています。

 

(2014年2月インタビュー実施)