避難先から帰還後の壁をなくし、母と子どもの生活を応援
<NPO Earth Angels>

団体と助成の概要

 

 震災後、放射線の影響を心配し、福島県外に母子のみで避難した家族が、震災から3年が経過し、様々な理由で避難先から帰還するケースが出はじめています。家族が離れ離れに生活することによる経済的な負担と精神的な不安から、やむを得ず戻る人も少なくありません。福島県に戻った母親が孤立することなく、福島県に留まった人たちとつながり、地域でともに支え合えるようにという想いから、「NPO Earth Angels」は発足しました。代表の安齋牧子さん自身が山形県に母子避難し、戻る際の不安や悩みを乗り越えてきた経験から、同じ境遇にある母親や、福島県内で生活する母親に、しっかりと寄り添えるのが何よりの強みです。不安を抱える母親同士が支え合う取り組みが、続けられています。

 

「活動を通して仲間に出会える」と話す安齋さん(中央)。
福島の母親たちの状況を県内外の支援者に伝えている。

 

県外避難から戻るときに活動を決意

 山形県に母子避難していた安齋さんが、夫が暮らす福島県二本松市に戻ることを決めたのは、「たびたび夜泣きやうなされながらパパを探す2歳の次男を、5歳の長男が『寂しくないよ、僕とママがいるよ』となぐさめる姿を見たから」。二重生活による経済的な負担はもちろん、子どもの精神的な限界を感じたためでした。いざ帰ると決めたとき、安齋さんの中に不安がよぎりました。「福島の状況は、今どうなっているだろう。放射線への考え方や県外避難について、様々な考えがある中で福島に戻って、私は居場所を見つけられるだろうか」と。同じような不安を抱えた人はいるはずと、県外避難の経験を持つ母親や二本松市出身の母親の6人で団体を設立。自分たちにできることから始めようと、放射線に不安を抱く母親が語り合えるサロンや個別相談を行う活動を始めました。

 

たくさん話し、手作りでリフレッシュ

  活動の名前を「Mom’s café」として月2回、「ガッツリお話し会」とワークショップを開催しています。2歳から中学生までの子どもを持つ母親が、多いときは10数人ほど集まり、「給食はどうしてる?」「水は?」といった放射線への不安や子育ての悩みなどを自由に語り合います。時には、医師やカウンセラーなどの専門家に参加してもらい、アドバイスを受けることも。「母親たちは子どもを守ろうとがんばるほど孤立して、寂しさを感じる人が多いのですが、ここに来ると放射線のことや保養(一時避難プログラム)のことも、みんなで共有できるから、ほっとするみたいです。『ここだったら話せる』と毎回参加している母親もいます」。参加者の中には、避難先から戻って半年間、人と会うことを避け自宅にこもっていた母親もおり、「思いきって来て良かった」という声も聞かれます。

 母親が気軽に参加したくなるように、小物やアクセサリー作りなど、気持ちをほぐすワークショップも開催しています。「得意、不得意に関係なく楽しめるように、8割くらい下準備をして、必ず完成するようにしています。『できた』という達成感により自分や子育てに自信を持てるようになったり、子どもに余裕をもって接することができるようになったりと、子どもを守ることにつながると思うから」。

 

 ワークショップは、リフレッシュが狙い。
マスク作りでは下準備した材料を用意し、「できた」という達成感を大切にする。

 

母親目線で集めた保養プログラム情報を届ける

 母親支援に加え、子どもが参加できる保養プログラム情報を伝える活動にも力を入れています。週末などに放射線量が低い地域で安心して外遊びができる保養の相談会には、情報を求めて福島県内全域から保護者が集まり、その数は200人に上ることも。「様々な状況に合わせて『長期で行ける』『移動方法』『費用』などのキーワードで探せるように工夫しています。母親である自分が『あるといいな』と思う情報をいろいろなパターンで提供できればと思っています」。

 

「子どもの幸せを願う親の気持ちを大切にしたい」という思いが込められた、
会員用(右)と支援依頼用のリーフレット。

 

小規模を生かし、生活に直結した活動に

 現在、会員は17人。「強制参加ではなく、必要なものに参加してもらえたら、それでいいんです。せっかく小さな団体なのだから、小さいからできることを、丁寧に行っていきたい。時間とともに母親の求めることも変わってきているから、声を良く聞いて孤立しないようにしないと」。母親が日常生活の中で感じる不安や困りごとをくみ上げ、地域の状況をインターネットで発信することで、避難先で子育てをする母親への情報提供にもつながっています。

 「県外に避難している母親から、1カ月に10件ほど相談の電話を受けています。悩みを聞き、必要があれば専門家につなぐことも。想いを話す受け皿だけは用意しておきたい」と相談窓口の役割も果たします。

 心がけているのは、避難先から戻った人にも、地域で暮らす人にも変わりなく接すること。「みんな子どもの幸せを願う気持ちは同じ。原発事故で福島の母親の間に生まれた溝を埋めたい」と話す安齋さん。そこで設けているのが、「認めあう」「受け入れる」「批判しない」という、3つのルールです。このルールにより、相談やワークショップに訪れる母親は安心して本音を話すことができ、「今日も楽しかった」「また来るね」と、すっきりした気分で帰っていくと言います。

 福島県外に住む母親の気持ちと県内に住む母親の気持ちの双方に寄り添いながら活動を続ける安齋さん。「今後も母親同士が支え合えるよう、サポートしていきたい」と想いを語りました。

 

(2014年3月インタビュー実施)