仮設住宅の居住者自身が取り組む、子どもの遊び場・交流の場づくり
<アリエッティの会>

団体と助成の概要

 

 東日本大震災で甚大な津波被害を受けた宮城県石巻市では、全住家の16%に当たる約2万戸が全壊、7,000戸以上の仮設住宅が整備されました。中でも市内で最大規模の仮設住宅団地が建設されたのが開成地区(総戸数1,142戸)。公園なども用地に充てられたため周辺には子どもの遊び場が少なく、「子どもが安心・安全に遊べて、親同士も交流できる場」が課題でした。

 そこで2012年4月、仮設住宅の居住者が中心となって設立した「アリエッティの会」は、開成第1団地の集会所を活用し、近隣地域の小学生や乳幼児親子がのびのびと遊べる「アリエッティのひろば(以下、ひろば)」を開設。2~3人のスタッフが常駐して子どもを見守り、遊びを通じた子どもの心のケアや子育てサポートに努めています。

 

子どもが思う存分遊び、大人はホッとできる空間

 「ひろば」の開設は、平日の木曜を除く4日間と隔週土曜日の10時~15時。集会所の約30畳の広間には多種類の玩具・絵本を収納した棚があり、自由に取りだして遊べる他、ボールプールなどの大型遊具も。またお茶飲みや食事ができるテーブル・いすも置かれ、大人もくつろいで過ごせるよう配慮されています。

 代表の奥山満寿美さんによると、「平日は乳幼児親子、土曜日と学校の長期休み中は小学生の利用が多い他、『子どもたちが元気に遊ぶ姿を見るのが楽しい』と言ってしょっちゅう足を運んでくれる年配の方も」。取材当日(平日)もたくさんの親子連れが訪れ、遊び回る子どもたちの歓声、母親同士の楽しげな会話でスタッフの声がかき消されるほど。「震災後は家に閉じこもりがちだったけれど、子どもも私も『ひろば』に来て友だちができた」と話す母親もいます。

 

代表の奥山満寿美さん(右)とスタッフの皆さん。
7名のスタッフは全員が子育て中の母親で、子どもと一緒に出勤することも。

 

子どものストレスを少しでも軽減するために

 「ひろば」を開設したいきさつについて奥山さんは、「仮設の住居内では、ご近所への気遣いから子どもが子どもらしく遊べないのが現実。被災して生活環境が激変し、家でも我慢を強いられる子どものストレスは相当なものだったはずです。一方、仮設住宅には団地ごとに集会所があるものの、ほとんど活用されていなかった」。そこで自治会長を務めていた前代表が、子どもの遊び場所の確保に向けて奔走。ボランティアを募り、2012年の夏休み期間限定で地域の親子に集会所を開放したのが「ひろば」のスタートだったと言います。

 活動の継続を望む声が多かったため、同年の冬休みから『ひろば』を再開。市内には親子で遊べる施設が不足しているため、現在は仮設住宅の居住者に限らず、広く地域の住民に開放しています。

 

子ども向けのイベントの他、母親のストレス軽減を図る講座も開催。
11月のアロマ講座ではバスボム(入浴剤)作りを楽しんだ。

 

家に閉じこもりがちな親子が外に出るきっかけにも

 スタッフ全員が子育て中の母親であり、奥山さんを含む2人は元・幼稚園教諭。経験や専門性を生かした「ひろば」運営をしているのも特長です。子どもや親同士が仲良くなれるよう間をとりもったり、同じ母親の立場で子育ての悩みを聞いたり。また「子どもが多様な人と触れ合い、家ではできない体験ができるように」と、「絵本の読み聞かせ会」(隔週1回)、毎月の「お誕生会」、季節ごとのイベントなど様々な催しを企画。催しへの参加をきっかけに『ひろば』の利用者となるケースも多く、「被災して気持が内向きになっている親子が外に出るきっかけづくり」にもなっています。

 仮設住宅に住む多世代の大人との交流会「いちごカフェ」(週1回)も好評で、特に70代~90代の参加が多いとか。子どもたちはお手玉など昔の遊びを教わり、お茶とお菓子を楽しみながら和やかに過ごします。また年配者が子育ての大先輩として母親の悩みに応えることも。ある時は、「『うちの子、まだハイハイができない』と気にしている母親に、90代のおばあちゃんが『赤ちゃんの興味をひく玩具を置いてみたら』とアドバイス。その通りにしたら赤ちゃんが目の前でハイハイを始めたんです」(奥山さん)。多世代交流は母親にとっても大きなプラスだと言います。

 

「お誕生会」と「ひなまつり会」を兼ねたイベントの1コマ。
元・幼稚園教諭のスタッフが作った顔出しパネルが子どもに大好評。

 

地域の子育て環境をより良くするために

 「ひろばづくり」に取り組んで約2年。「子どものストレス発散や交流のお役に立てたとは思いますが、子どもを取り巻く状況は根本的には変わっていない」と奥山さん。「生活再建の見通しが立たず、子どもの心のケアまで手が回らない」など厳しい家庭環境に置かれた子どものストレスが、きょうだい間の激しい喧嘩といった形であらわになることも。「そんな時、私たちが出来るのは子どもの話にじっと耳を傾けるだけ」と言う奥山さんですが、一人ひとりの子どもに寄り添うこと自体、活動の大きな意義ともいえます。

 一方、「被災した当事者であるスタッフ自身が変わったことも、最も目に見える成果」(奥山さん)。あるスタッフは「家を失ったショックで子どもと遊びに出る気力もなかったけれど、『ひろば』の運営に関わり、子どもやお母さんが少しずつ元気になっていくのを実感することで、自分も前向きになれた」と明かします。

 復興住宅への移転が進む今、「やっと慣れた学校を転校するなど、子どもたちは不安定な状態に置かれています。地域の子育て環境を良くするための活動を今後も長く続けたい」と奥山さん。石巻での活動を継続しつつ、子育て支援が不足している近隣地域でも「『ひろば』のような施設がつくれたら」と意欲的です。

 

(2014年5月インタビュー実施)