住民一人ひとりの意見を引き出し、地域の復興を後押し
<特定非営利活動法人 いわて地域づくり支援センター>

団体と助成の概要

 

 岩手県大船渡市の沿岸部に位置し、約200世帯の漁村である崎浜地区は、東日本大震災の津波の被害により家や漁業の拠点などが流失。被災した住民は高台に建つ小学校の校庭に建てられた仮設住宅などで避難生活を続けています。

 いわて地域づくり支援センター(以下、「センター」)は、2011年より崎浜地区における自治会が主体となった復興をサポートしています。これまで、住民主体で復興やまちづくりについて話し合う「復興会議」において、会議の進行役や資料づくりを担ったり、住民から出たアイデアを形にするためのサポートをしたりと、自治会や住民の取り組みがスムーズに進むような後押しを続けています。

 

復興会議の取り組み

 センターは崎浜地区へは震災前から地域交流事業で関わりがあり、復興の取り組みにも直後から寄り添い続けています。

 「通常の自治会業務に加えて、復興に関する業務も積み重なり、自治会だけで担うには負担が大きすぎます。私たちが担えるところはできるだけ分担して、復興を進めていきたい」とは、センター事務局長の若菜千穂さん。

 2014年5月に新しく自治会長に就任した中嶋幸平さんは、若菜さんを始めとしたセンターの存在に「自分たちだけでは難しいことにも一緒に取り組んでもらい、助かっている」と信頼を寄せています。

 2011年6月から始まった復興会議では、新しい居住地となる集団移転の候補地の検討を主に行い、行政に意見を提出するなどしてきました。その後、集団移転地は決定しましたが、2013年からは移転地にどのように道路を通すか、共有スペースの利用方法など、さらなる議論が必要になっています。また、浸水した土地を今後どのように利用するかについても話し合いが始まっているところです。

 

浸水区域の土地利用について、地元住民から出たアイデアを模型に。
立体になることで、土地の高低差も分かりやすい。

 

女性や若者もまちづくりへ

 2014年6月に行われた復興会議では、神奈川大学や岩手大学からも協力者が参加。それまでの会議で住民から出た浸水域の利用方法案を基に、神奈川大学が模型を作成。具体的なイメージを共有した上で、住民同士で意見を交換しました。

 グループに分かれ、ワークショップ形式で意見を出し合います。各テーブルには、意見のメモやまとめ役として学生も参加。女性グループからは「子どもが遊べる遊具がほしい」「トイレは誰が管理するの?」など、女性ならではの視点による意見が飛び交います。年配男性が参加したグループからは「若い人の意見も取り入れ一緒に考えたい。夢のバトンをつなげたい」とも。震災からの復興という大きな地域の課題に対して、みんなで意見や知恵を出し合いながら一丸となって取り組んでいこうという思いが形になり始めています。

 参加した女性からは「女子会に参加する感じで、言いたいことを言える場です。私たちの意見も反映してもらえると嬉しい」と、まちづくりへの参加に意欲的です。

 センター理事長の廣田純一さんは、「住民の皆さんが描いた絵の中には、制度の中で出来ないこともあります。ではどうすればいいか、こういう形ではどうかなど、私たちも提案をしながら一緒に探していきたい」とセンターの役割を話しました。

 

グループに分かれ、それぞれから出た意見を最後に発表。
学生が意見のとりまとめや発表でサポートに入る。

 

行政と住民との架け橋 

 復興会議にはテーマによって行政からも担当者が参加することも。行政にとっては住民の意見を聞くことができ、今後の方針を伝えられる貴重な場。復興会議は住民同士だけでなく、行政と住民との架け橋の役割も担っているのです。

 また、センターでは被災した住民の住宅再建サポートにも取り組んでいます。住宅再建にあたっての行政からの資料や情報を住民に分かりやすく提示するなどして、早期の住宅再建をサポートしています。

 住宅再建の相談会や住民同士の情報交換の場を開催した際には、参加した住民から「一人で悶々と考えていたことを、人に話すことで整理できた」などの声も。住民のニーズに合わせた支援をきめ細やかに行っています。

 

前列左から2番目が廣田さん、後列左から4番目が若菜さん、2番目が中嶋さん。
会議には女性や若者も関わる。

 

未来のイメージを描くお手伝い 

 震災直後から地域をサポートし続けている若菜さん。「震災から時間が経ち疲れもあると思いますが、住民の声が聞こえづらくなってきた」とも話します。「でも、意見がないはずはないんです。一人ひとりの考えをどうしたら引き出すことができるかを考えていかなければ」。

 そこでセンターでは、モデルとなる類似する漁村への視察や、全世帯へのアンケートの実施、若者向けのワークショップの開催などを計画しています。まちづくりにより多くの人が関われるよう、様々な角度からアプローチを続けています。

 若菜さんは「未来のイメージを描くお手伝いをすることで、納得しながら一歩ずつ進んでいければ。復興をチャンスに変えて、崎浜のまちづくりに地域全体で取り組むきっかけにしたい」と意欲的です。

(2014年6月インタビュー実施)