福島第一原発事故の影響により、全町避難となった沿岸部の大熊町や楢葉町をはじめ、多くの県内避難者を受け入れた会津若松市では、市内12カ所に設置された仮設住宅や借り上げ住宅などに約3,100人が生活しています(2014年4月現在・福島県調べ)。
避難してきた子どもの居場所として学童保育の活動を行っているのが「寺子屋方丈舎」です。支援を必要とする子どもが急激に増えたものの、支援に携わる人材は不足。支援に携わるスタッフやボランティアが、さらに知識を得てステップアップする機会も少ない状況です。より充実した学童保育を行うため、2013年度を人材育成の年と位置づけ、助成を活用した内部研修の実施や外部研修への参加に注力。研修を通してスタッフが相互に学び合い、支え合い、子どもにより深く適切に関われるよう知見を深めています。
子どものコミュニティを継続する学童保育
会津若松市内を拠点とする寺子屋方丈舎は、10年以上前から不登校の子ども支援を行ってきた実績のある団体です。地域の子ども誰もがコミュニケーションスキルを育めるように、自然体験やキャンプでの共同生活などを通じて、子どもの社会参画を支援してきました。その経験を生かし震災後は、避難者も同じ地域住民と考え、避難所で遊び場づくりを行っていました。
活動を学童保育へと広げたのは、子どもと保護者が避難所を出て仮設住宅などに移る際のこと。同じ避難所に住んでいた人が同じ仮設住宅団地に入れるとは限らず、友達と離ればなれになってしまう危惧があったからです。「住まいが離れて周りに友達がいなくなってしまう。子ども同士、母親同士、両方のコミュニティがなくなってしまうと心配した」とスタッフの蓮沼周平さんは振り返ります。生活環境の変化により友達との別れを多く経験し、またいつ離ればなれになるかわからない不安で、子どものストレスは高まる状況。「集まれる場所を借りて学童保育を始めた」のは、2012年11月のことでした。
子どもに関わりたいと教育系の大学で学んだ蓮沼さん。
子どもの遊びを触発し、子ども同士のつながりづくりも心がけている。
自由に遊ぶ居場所での子どもへの接し方
寺子屋方丈舎が行う学童保育では、4歳~小学4年生が、市内中心部にあるビルの一角に設けられたスペースで放課後から18時まで過ごしています。
低学年の「宿題をやって帰りたい」の声を反映し、集まると各々が宿題に取りかかります。解答に迷い、友達と相談しても分からないときは、スタッフがサポートに入ります。その間、園児はお絵かきなどをして遊びます。宿題を終えると、ブロック遊びやドッジボールなどの室内遊びや、近所の公園での外遊び。週1回は車で約10分の総合体育館の公園に移動し、アスレチック遊具で遊び、地元の子どもと触れ合う時間を子どもは楽しみにしています。
スタッフは蓮沼さんを含めて2名。地元の短大生や高校生もボランティアとして協力し、常時2名体制で子どもを見守っています。そこで課題となったのは、子どもへの接し方です。「子どもがストレスを発散できる場所が目的だったこともあり、子どもの要望に合わせ過ぎてしまったんです。子どもは自分たちが好き勝手できると思って悪ふざけが過ぎてきてしまって」。子どもにとって適切な関わり方をするため、人材育成研修の充実が必要になってきました。
お絵かきやチャンバラごっこなど、子どもが主体性をもって遊ぶように、
スタッフは一緒に考え、問いかけを大切にしている。
子どもと真剣に向き合う力を研修で培う
寺子屋方丈舎の強みは、スタッフが真剣に子どもと向き合い、スタッフ自身の考えや意見も尊重しながら、事業を一緒につくりあげていくところにあります。その強みを生かした内部研修は、ボランティア登録時から始まります。団体の代表者や蓮沼さんが、「子どもの権利尊重」「個人情報の保護」「緊急時の対応などリスクマネジメント」など基本的なことから、「子どもの主体性を引き出す対応」まで、約1、2時間にわたり丁寧に説明します。
特に注力したのが、スタッフ全員による日々の研修です。ベテランスタッフを内部講師に、スタッフ全員が子どもの様子と対応について振り返り、実例に基づいてコミュニケーション方法の意見を出し合います。現場で働くスタッフ同士が日々の活動で直面した悩みや課題、考えていることを共有。寺子屋方丈舎としての結論に至るまで、数時間に及ぶこともあるとか。ディスカッションを通して、長年の経験に基づく子どもへの対応を共有する仕組みをつくっています。外部研修では、県内で子どもの環境教育に関わる団体による支援者養成講座などに参加。各団体のスタッフが現場でどのように子どもに関わっているのかを知り、意見交換することで、具体的な子どもへの寄り添い方を学ぶこともできました。
外部研修に参加して、各団体と意見や情報を交換することで
「現場ですぐに生かせることを学べた」とスタッフの蓮沼さん。
1年間の充実した研修を通して蓮沼さんは「子どもの話をしっかり聞けば、スタッフが怒る必要もなく、子どもの主体性を引き出せるようになってきた」と成果を感じています。問われているのは子どもではなく、スタッフをはじめとする大人の対応。子どもの気持ちをしっかり受け止め、変化し続ける子どもの伴走者になりたいという思いが寺子屋方丈舎にはあります。その考えのもと、「子どもが自分の感情を素直に表現し、子ども自身が主体的につくっていける場所にしていければ」と蓮沼さんをはじめ、スタッフは子どもに真摯に寄り添う存在でありたいと願っています。
(2014年4月インタビュー実施)