被災した親と子が綴った手記集を発行し、教訓を礎に
<しおクローバー>

団体と助成の概要

 

 東日本大震災で津波被害を受けた宮城県塩竈(しおがま)市で子育て中の母親とその家族のために、支援物資の配布や情報提供など、自らも被災しながら支援活動に携わってきた母親たちがいます。震災から月日が経つ中で「震災で得た教訓を生かしたい」と、支援活動で知り合った4人の母親が震災1年後に「しおクローバー」を発足。「震災の経験者だから残せる言葉がある。記録し伝える冊子をつくろう」と呼びかけ、寄せられた手記を冊子に。緊急時の対応はもちろん、経験者の心情が吐露された手記集は書籍としてまとめられました。震災から得た教訓や想いを広く伝えて次に生かすとともに、手記を書くことによって母親が立ち直るきっかけづくりにつながっています。

 

『3.11東日本大震災から こどもたちを守るために~あの時のママ・こども達の声~』には、
心にとめておきたい教訓や想いが。

 

読んで気持ちを共有し、書いて心を楽に

 震災当時、代表の鈴木千夏さんは2人の幼い子どもを抱え、紙おむつや粉ミルクの入手などに困った経験から、同じような境遇の母親に役立てようとウェブサイトの掲示板を立ち上げ、物資情報を発信。避難所での支援物資配給の手伝いなど支援活動にあたる日々を過ごしました。「震災時に感じた不便さをそのまま終わらせてはいけない。母親たちがどんな状況で、どんなことを必要としているかなどを周囲の人に知ってもらえるだけでも心強いもの。経験を生かそう」という鈴木さんの想いに3人の母親が共感。震災の1年後、手記を集めて発行することを決めました。

 発行を後押ししたのは、鈴木さん自身の体験もありました。「つらい経験をしたときに同じような体験談を読んで救われたことがあったんです。忘れる怖さもあって、書くことで気持ちが楽になることもあるかなと思いました」。手記を通して、大変な経験をした母親に寄り添うことにもなると感じたのです。

 

手記をまとめた本の感想が記された読者カード。
「この教訓を後世に役立ててほしい」という読者からの言葉に励まされた。

 

「伝えなければ」の使命感から書籍化

 ママ友達の知り合いを中心に手記を依頼。「震災当時の様子は」「その後は」という2つの質問に絞って、自由に体験談を書いてもらいました。体験談を寄せた母親からは「つらい体験を伝えたい想いがあった」「たくさんの方に助けられたお礼を、誰にどう伝えればいかわからなかった。ようやく感謝を伝えられる」と安堵する声も。寄せられた手記は、約30ページの冊子として2013年3月から1年間に3回発行しました。

 体験談には、「避難所で母親がマッサージすることでぐっすり眠った子どもがいた」、「授乳中に声をかけられ戸惑ったが、仕切りを作ってもらい助かった」といった、経験者でなければ書けないことが記されていました。伝え・残すことの必要性を感じたメンバーは、多くの人に読まれてこそ意味があると書籍化することに。2013年4月に発行した本文194ページにわたる本には、母親と父親の21話、子どもの4話、忘れたくないことなどが紹介されています。

 編集経験のないメンバーたち。「子どもが寝た夜9時ごろから夜中12時頃まで、メンバーと編集についてパソコンでやりとりしていました。ハードでしたが、原稿を読むと、記録し、伝えなければと使命感が湧いてきて」と励まし合いながら編集を進めました。

 発行した本は、自分たちで働きかけて、塩竈市内や周辺地域の産婦人科、子育て支援センター、公共施設、宮城県や隣接県の大学図書館などに設置。広く目に触れるように、ウェブサイトでも紹介しています。

 

阪神・淡路大震災の経験者と支え合う

 手記の発行により情報発信するとともに、「やり場のない気持ちを抱えた母親の心のケアもしたい」と情報も収集。インターネット上の、阪神・淡路大震災の被災者から東日本大震災の被災者に向けた「力になりたい」というメッセージに出会い、その発信者を通して阪神・淡路大震災の遺族との交流が始まりました。

 阪神・淡路大震災の遺族の手記を冊子にまとめ、東日本大震災の遺族に渡すと、「希望の光が少し見えてきた」「時間がかかっても、明るい母親に戻りたい」といった前向きな言葉が聞かれるように。交流会では、遺族同士が顔を合わせ、「一生口にすることはないだろう」と思っていた想いを話し、同じ経験をした人だから分かり合える時間をもつことができました。

 

阪神・淡路大震災を経験した方と手紙のやりとり。
被災体験をもつ人同士だからこそ分かり合えることがあり、心の支えに。

 

命を守る術と意識を伝えたい

 活動がひと段落した今、「同じ塩竈に居て、子育て中の母親だからこそできる支援ができた」と振り返る鈴木さん。本を手にした読者からは、手記への想いや次世代へ伝えることの大切さを感じたという声が寄せられています。物資のない中で乳幼児がいる母親がどう対処したかやうれしかった周囲の人の心づかいなど、経験した当事者でなければつづれない手記により、子育て中の母親にとって災害への備えや防災意識の高まりにつながっています。

 手記を寄せた母親からは「発信したいというより、忘れてほしくないという気持ち。取り上げてもらってうれしい」と、悲しみから立ち直るきっかけにもなっているようです。震災から3年がたった今だから、改めて感じることがあると鈴木さんは話します。

 「今も大変な想いをしている母親の気持ちを、折に触れて書きとめてもらっているところです。その気持ちを1冊の本にまとめる手伝いを、またメンバーでできればと思っています」。

 

(2014年5月インタビュー実施)