木のぬくもりあふれる屋内遊び場を開設し、地域の子育て交流の場に
<特定非営利活動法人 Lotus>

団体と助成の概要

 

 

 福島県会津地域は、福島第一原発の事故により、全町避難となった福島県沿岸部の大熊町や楢葉町をはじめ、多くの県内避難者の受け入れ地域になりました。乳幼児を抱えた保護者にとって、放射線への不安はもちろん、雪が多い会津地域での初めての子育てなど、慣れない地域での育児に戸惑うことが少なくありませんでした。

 そこで、会津若松市内で24時間対応の保育施設事業を行っている「Lotus」は、福島県内初の「木育」をコンセプトとした屋内遊び場「赤ちゃん木育広場 もくれん」を2013年3月に開設。親子が安心して過ごし、保護者同士の情報共有の場ともなる屋内遊び場を拠点に、保護者と共に子育てに取り組んでいます。

 

保護者の声に応えた屋内遊び場

 母親目線に立って、そのとき求められている子育て支援にいち早く気づいて提供するのが、Lotusの活動の強みです。理事長の山口 巴(ともえ)さんは子育てと仕事を両立してきた経験から、保護者の要望をくみ取り、さまざまな就業スタイルに合わせて、土日祝日に関係なく24時間対応できる保育園を2010年から開設してきました。

 「震災後、よく耳にしたのが避難してきたお母さん方からの放射線への不安です。もともと会津は1年の4カ月以上が雪に覆われる地域で、乳幼児は冬の間、外遊びができません。知り合いのいない初めての土地で、家から出ず孤立してしまう親子がいるはず」と不安を覚えた山口さん。その状況を防ぐため、屋内遊び場をつくることに。子どもの運動不足の緩和はもちろん、保護者の育児不安を解消する場や、情報共有の場にと考えたのです。

 

おもちゃコンサルタントやおもちゃインストラクターが、子どもとの関わり合い方を

見せることを通して、保護者にも遊び方を伝えられる。

 

自然素材のおもちゃで安全に衛生的に

 屋内遊び場を造るにあたって参考にしたのは、(特活)日本グッド・トイ委員会が運営する東京おもちゃ美術館です。それまで漠然としていた屋内遊び場のイメージは、同美術館を訪れ、木曽ヒノキのたまごプールに足を踏み入れたときに決まりました。

 木のおもちゃに触れることで、子どものころ会津の野山で遊んだ感覚を呼び覚まされた山口さん。「子どもたちが生まれて初めて出会うおもちゃが、木のおもちゃであってほしい」と思うようになりました。

 コンビニエンスストアの居抜き物件を改装した広さ約60畳の屋内遊び場には、国内外の木のおもちゃ130種類以上をそろえました。週6日、土日祝日も9時から17時まで開園。昼休みの1時間は除菌や清掃にあて、「赤ちゃんの歯固めに安心しておもちゃを使えるように」と衛生面にも配慮しています。

 

保護者目線で制作した会津の子育て情報誌「會ガモ」。

妊娠時や子育てに必要な情報を網羅したA4判40ページ。

 

子どもに合うおもちゃを見極める

 保育士の資格や子育て経験があるスタッフは、さらにおもちゃコンサルタントやおもちゃインストラクターの資格も取得。子どもの成長や性格に合わせた、おもちゃ選びのアドバイスなども行っています。

 おもちゃコンサルタントとは、優良なおもちゃや遊びを子どもたちにバランスよく提供する、前述の日本グッド・トイ委員会が養成、認定する資格のこと。山口さんは同委員会が運営する東京おもちゃ美術館に通って資格を取得。スタッフも同法人が認定する、おもちゃインストラクターの資格を取得し、子どもたちに遊びの世界を広げるアドバイスを行っています。その資格取得に、助成が活用されました。

 「養成講座を受けるまでは、積木は積むものという感覚しかありませんでしたが、ままごとや算数遊びに使えることも分かりました」と一つのおもちゃに、様々な遊び方があることを実感。「成長や性格に合わせたおもちゃがそろっています。ボタン掛けが苦手な子どもには、指先を使うおもちゃなど、子どもの力を引き出すようにしています」。おもちゃコンサルタントの養成講座で学んだ経験を生かし、一人ひとりに適したおもちゃを見出せるようになりました。

 子ども自身も感覚に合うおもちゃを見つけ、飽きることなく夢中になって遊べるせいか、「ここで遊ぶと、帰宅後ぐっすり眠ってくれる」と保護者からも喜びの声が上がっています。

 

おもちゃコンサルタントでもある山口さん。子どもの様子や反応を見て、

その子に合うおもちゃに触れられる機会をつくる。

 

母親目線でまとめた子育て情報誌

 子どもにとっては貴重な遊び場であり、保護者にとっては情報交換ができる交流の場。さらに役立つ情報発信をしようと、会津地域初の子育て情報誌「會ガモ(あいがも)」も発行しました。「子育て情報が1冊にまとまっていれば助かる」という母親の想いをきっかけに作られた情報誌には、妊娠時からの子どもの成長に合わせた支援情報が網羅されています。例えば、健診、予防接種、離乳食、子育てのサポートを受けられる施設や機関、経済的な支援制度、屋内遊び場マップ、さらに子どもにまつわる伝統行事や、先輩ママの一言アドバイスなど、情報が詰まっています。

 当初は3,000部を発行予定でしたが、広告協賛金を募って予算を確保し、2万部を印刷。行政を通して未就学の子どもを持つ保護者に配布しています。「保護者の身近な存在として相談にのり、求められることに応えていきたい」と話す山口さん。保護者や行政関係者からも地域の子育て支援活動に大きな期待が寄せられています。

 

(2014年5月インタビュー実施)