市街地が壊滅的な被害を受けた岩手県陸前高田市。震災直後のガレキ撤去や炊き出しなどの災害復旧から、心のケアや手仕事作りなど生活再建を目指すまでのそれぞれの段階で、全国から多くのNPOやNGOが陸前高田市に入り、活動してきました。同様に、地元住民が立ち上がり組織したNPOや市民活動団体のほか、企業なども復興に向けてさまざまな活動を展開し始めています。
ただ、復興に向けた活動が盛んになる一方で、行政を始めとし、各団体がそれぞれ個別で活動を展開しており、必ずしも情報が共有されているという状況ではありませんでした。仮設住宅の住民からは、各団体から訪問調査を受けて疲れた、という声が聞こえる一方で、一部の住民が支援イベント開催の情報を知らされていないなど、支援団体側での情報共有と情報伝達が不足しているという指摘がありました。
NPOの中間支援に実績
岩手県一関市に拠点を置き、障害者支援の施設運営を行っているNPOレスパイトハウス・ハンズは、地域住民やボランティアと行政をつなげ、地域づくりを支援する中間支援を行ってきました。2008年には一関市からの事業委託を受け「いちのせき市民活動センター」を設立し、市民活動団体間の連携を図るとともに、組織運営コンサルティングやNPO法人の立ち上げ支援など、さまざまなノウハウを提供してきました。
ワークショップや連絡会で情報を共有
レスパイトハウス・ハンズでは今回、陸前高田市のボランティアセンターから、市内で活動する約80の団体が交流できる場と情報の集まる拠点を設置し、運営してほしいとの要請を受けました。さっそく「陸前高田まちづくり協働センター」の設立を決め、2012年5月にオープン予定の大隅商店街内に設置場所を確保し、準備を進めています。センター開設の手始めに、情報の一元化を目指して、80団体が参加できるネットワーク連絡会を11年12月に立ち上げました。
「第一回連絡会は、全団体が自己紹介。二回目は行政に対するクレーム。三回目にワークショップを導入して、ようやく方向性が見えてきました」と振り返るのは、いちのせき市民活動センター副センター長の小野寺浩樹さん。ボランティアセンターやジャパン・プラットフォームなどと一緒に事務局運営をしています。
これまでの支援活動は、どの地域で何が行われているのかを誰も把握できていませんでしたが、連絡会を通じてイベント開催一覧を作成できるようになりました。
ワークショップを通じて課題を共有し、支援団体間で不足している人材やモノを融通し合うようにもなりました。 2週間に1回のペースで開催している連絡会は、参加者が増える一方と言います。「支援団体も情報を求めて参加している。連絡会では団体と団体がつながる場になっている」(小野寺副センター長)と、連携による効率的な被災地支援が実現しつつあると評価しています。イベント開催、子ども支援、物資支援については、分科会も発足。5月に開設する市民活動センターができた暁には、ネットワーク連絡会の機能をセンターに移管し、メイン事業としていく見込みです。
連絡会では、各仮設住宅の自治会長に、地域の現状について支援団体の前で話してもらうよう呼びかけています。地元の方々との情報交換では、複数の団体による支援の重複を未然に防ぐことに加え、よりニーズに合致した支援を提供できるようになりました。ゆくゆくは、自治会長をはじめとする地元住民たちには、仮設住宅の住民から意見を引き出し集約するコミュニティ支援員として市民活動センターの活動に参画してほしいと考えます。
復興をコーディネートする新センタースタッフの人材育成
レスパイトハウス・ハンズでは5月に開設するまちづくり協働センターで働くことになるスタッフも、陸前高田市に関わりのある人材を新たに採用しました。いちのせき市民活動センターで研修を行い、復興の中心的役割を担う人材育成を行います。
小野寺副センター長は「センターは住民の意見を引き出して、行政につなぐ役割を担う。でも、あくまでも地域と行政とを中立の立場からコーディネートするもの。地域コミュニティや行政はもちろん、支援団体などからも頼られる存在になってほしい」と、新人スタッフに期待を寄せています。
ヒアリングを通じて地域の課題を把握し、ネットワークを作ることで復興に関する情報が行き来する場所ができるよう、新人スタッフと二人三脚で市民活動センター開設の準備を急ぎます。
人材研修を担当するレスパイトハウス・ハンズ会長の小野仁志さんは「まちづくりは一進一退。復興も大事だけど、その後のまちづくりもしっかり視野に入れて活動したい」と語ります。スピード感を持ちつつも、じっくりと時間をかけて地域の意見に耳を傾けることができるようなまちづくり協働センターの実現を目指します。