地域住民が自立できる仕組みづくりを 
<特定非営利活動法人 寺子屋方丈舎>

団体と助成の概要

 

 県西部にあたる福島県会津地域には、福島原発事故のため、沿岸部の浜通り地域の住民が多数避難しています。会津地域は寒冷な気候で降雪も多く、温暖な浜通り地域から引っ越してきた被災者たちからは、厳しい冬に対する不安の声が聞こえていました。

 そんな声に応えて、NPO法人寺子屋方丈舎では、降雪に備えてスコップなどの除雪用具を調達したほか、高齢者を対象としたサロンを企画し、仮設住宅内での孤立化防止を計ってきました。また、学生ボランティア組織と連携して、震災直後から始めた小中学生を対象とする学習支援を継続しています。

 

自立するための仕組み化

 「不登校児支援と被災者支援の構造は同じ」と語るのは、寺子屋方丈舎の理事長である江川和弥さん。寺子屋方丈舎は2001年から会津地域を中心に、キャンプなどの体験学習や不登校児向けにフリースクールを運営するなど、子どもたちに居場所や学びの機会を提供する活動を展開しています。子ども支援のノウハウを持つ江川理事長によると、いずれの支援も要は「自立できる仕組みをつくること」。支援する側が支援で押さえるべきポイントを仕組み化することで、支援される側は自然と自分たちの力で立ち上がることができる、と言います。

 

仕事をつくることで引きこもりを防止

会津若松市内の仮設住宅

会津美里町には福島原発から20キロメートル圏内の楢葉町からの避難者向けに約240戸の仮設住宅が軒を連ねています。

 

 雪が多くて、ただでさえ引きこもりがちになる冬。方丈舎では、仮設住宅の集会所でお茶飲み会や手芸教室を開催しています。住民が手芸教室で作った布わらじをパルシステム経由で販売する仕組みも構築。参加者は、緊急雇用制度によって実働分の給与と販売数に応じた利益を手にすることができます。

 外部から講師を招いていましたが、参加者はすっかり技術を習得し、現在は約20人が週に3回、一カ所に集まり、おしゃべりを交えながら手を動かします。参加者は老若男女さまざまですが、比較的男性が多いもよう。「一人暮らしをする高齢男性を外に連れ出すには仕事じゃないと難しい」と考えた江川理事長は社会福祉協議会の協力を得て、一人暮らしの高齢男性にターゲットを絞り、声をかけました。

布草履づくりが外に出るきっかけに

 一日一足の布わらじを編む88歳のおじいさんは、高台の自宅は無事だったにも関わらず、楢葉町から避難せざるを得ませんでした。おじいさんは静かに「みんなで集まれる場所があって良かった」と打ち明けてくれました。教室には一ヶ月ぶりの参加ですが、慣れた手つきで布わらじを編んでみせます。室内の一角では、楢葉町のキャラクター「ゆず太郎」の刺し子や会津木綿を使った小銭入れを作るグループも。手芸教室はそれぞれがマイペースで参加できる場所になっています。

 

 

学習支援とともに、そこに関わる学生ボランティアの育成も

 子どもたちの居場所作りとして始めた学習支援も、一時避難所に学生ボランティアを派遣していた4月から継続しています。避難者が仮設住宅へ入居した後も、楢葉町の避難仮設住宅がある会津美里町と大熊町の避難住宅がある会津若松市の仮設住宅2カ所で、週3回の学習支援を行っています。

 転校を余儀なくされた子どもたちの中には、新しい環境になじめず、ストレスを抱え不安定になる子も見受けられました。学習支援は勉強の遅れを取り戻せる場所としてだけでなく、継続的に関わる大人のいる場所として認知され、子どもたちが歳の近い学生ボランティアに悩みを打ち明けてくれるケースも多々あります。

子どもの居場所づくりにも取り組む

 学習支援には子どもの居場所作りの他にも狙いがあります。江川理事長は「この震災をきっかけに、地域のためとなる財産が残ってほしい。学生ボランティアがちゃんと組織化して、学生自身も成長することができれば」と語ります。学習支援では、会津大学短期大学部の学生が中心となり組織する「会津学生ボランティア連絡会」の約130人の登録ボランティアの中から、毎回5〜6人が子どもの勉強を見ています。

 方丈舎には、仮設住宅の自治会とボランティアのそれぞれの予定を調整するコーディネーターがいますが、学生ボランティアの組織化を支援するために、学生たちのケアも行うようになりました。「人にもまれる経験が少ない学生にとって、この事業では学生の方が学ぶことが多いようだ。コミュニケーションを密に取り、事業計画を立てる中で、お互いに学び、育てる機会になっている」(江川理事長)。学生ボランティアの組織化は、学習支援事業の継続的な運営以外にも、波及効果をもたらしています。

 

当事者の気づきや変化を促す環境を

 

江川理事長

 江川理事長は被災者支援について「場の設定と仕組みの提供がきちんとできれば、誰でも自立することはできる」と考えます。それは支援する側も同じ。学生ボランティアしかり、国や行政と被災者との間のコーディネーションはまだまだ不足していると問題意識を持ちます。方丈舎は、当事者それぞれの気付きや変化を促す環境を作るコーディネーターとして、地域を見守っていきます。