宮城県南部、福島県との県境の山元町にある、統合失調症など主に精神に障がいをもつ人が通う障がい福祉サービス事業所「山元町共同作業所『工房地球村』(以下、工房地球村)」。東日本大震災発災以前は、町内の老人ホームなどの清掃を請け負ったり、山元町特産のいちごを使ったジャムなど加工食品をつくったりして、利用者が収入を得、社会に参画する機会を提供していました。工房地球村の施設は津波被害を逃れましたが、利用者の多くが避難所での生活に。施設再開後も、清掃請負元が被災、また、工房地球村の食品加工用の機械が地震により損壊するなど、授産活動の3分の1を失いました。その状況から立ち上がろうと、施設側と利用者が一丸となって、アートやコミュニティ・カフェなどの新たな取り組みを始めています。
震災前も震災直後も「地域に支えられていた」
「震災後、避難所などで『地球村の利用者さんだよね』って声をかけられることが多かったようで、利用者は地域の方々にとてもお世話になった」と施設長である田口ひろみさん。また、利用者と同じ避難所になった人や元々近所に住んでいた人などが、利用者の日々の体調を気遣ってくれたり、田口さんに利用者とその家族の安否を教えてくれたりし、工房地球村が地域に支えられていることを実感したと言います。
山元町内の福祉施設は海の近くにあったため、その多くが津波被害を受けて流出しました。施設が無事だった福祉施設として、利用者を支えてくれた地域の人に恩返しがしたい、更には、震災後の環境の変化で気力を失い、自信を無くしている利用者を励まし、一緒に恩返しがしたいと様々な取り組みを始めました。
それぞれの魅力を引きだし、自信を取り戻す
毎週1回開催される、工房地球村でのアートワークショップ。絵を描いたり、うちわに絵付けをしたり、紙粘土で立体作品を作ったりと、毎回約20人が参加しています。
田口さんは、アートワークショップを始めてから、利用者のリフレッシュになるだけでなく、思わぬ反応が見られるようになったといいます。「工房地球村に通う方は、年齢・障がいも様々。そんな中、いわゆる「作業」ができる・できないで、人を比べてしまうようなことが利用者間にあった。でも、アートはその人本来の魅力を引き出す力がある。作業以外のそれぞれの良さを発見できることで、尊重し合うことができるようになった」。アートワークショップで生み出された作品は、カフェ地球村で展示したり、販売する商品のパッケージに取り入れたりと活用されています。
また、ワークショップを楽しみにしている利用者が多く、工房地球村へ来所する回数が増えるという、うれしい変化もありました。「工房地球村自体の魅力アップにつながった」と、田口さんは笑顔で話します。
アートワークショップで完成させた絵に、大満足の表情。
週一回のアート活動を楽しみにしている利用者も多い。
月に1回、仙台オペラ協会の講師・ピアノ講師によるゴスペルの歌とダンスの時間も。
英語の歌にも挑戦する予定。
様々な人が集う、憩いのカフェ
工房地球村と同じ敷地内にある「カフェ地球村」は、地域の様々な人が集う場となってほしいと、2012年11月にオープンしました。山元町は、東日本大震災で大きな被害を受け、地域の住民が気軽に集えるような場所はまだほとんどありません。「仮設住宅に住む男性が一人でお茶を飲みに来て、他のカフェ利用者と交流が始まったこともあった」と田口さん。カフェ地球村のオープン以来、地域住民の憩いの場となるだけでなく、山元町の復興や工房地球村を応援する県外からのファンも訪れています。15席ほどの小さなカフェですが、インテリアにこだわりが感じられる居心地の良い空間。工房地球村の利用者が接客をするなど、スタッフとして活躍しています。
カフェ地球村の空間づくりは、フードコーディネートや接客の専門家が月に1~2回研修を行います。メニューボードづくり、カウンターの整理整頓の仕方、ライトの当て方など、カフェ地球村のイメージアップにつなげています。
また働くスタッフへは、おじぎとあいさつの練習や、身だしなみ、接客の仕方などの研修を行いました。「生き生きと接客できるようになり、『カフェはおもてなしをする場所』という意識が芽生えています」(田口さん)。さらに、東京の先駆的なコミュニティ・カフェへの視察を実施。空間づくり、接客、商品のクオリティなど、サービスの質を高めることの重要性を学び、工房地球村の目指すものが再確認されました。
カフェ地球村は、工房地球村の利用者や家族を始め、
周辺の仮設住宅に住む人なども利用し、様々な交流の場となっている。
地域を盛り上げる存在を目指して
工房地球村のこうした活動は、「地域のために貢献したい」という思いが原動力。「震災後、施設が一時閉鎖になった時、自らも被災している住民の皆さんが協力してくれて運営を再開できた。その後も全国から多くの人が心配して駆けつけてくれたり、商品を買うことで支援してくれたり、これほど愛情やエネルギーを感じたことはなかった。私たちが還元できるのは、工房地球村の活動を通して地域を盛り上げていくこと」と力強く語る田口さん。更に「山元町の復興は始まったばかり。復興の担い手として、障がいのある人でも地域のために活躍できることを示したい」とも。
「『山元町に工房地球村がないと楽しくない』と言ってもらえるようになりたい」と、誰もが生き生きと暮らせる魅力的なまちづくりに向け、これからもチャレンジを続けます。
(2014年3月インタビュー実施)